ワタミが「ブラック」なのは理念だけでない 現場に責任を押し付ける「会社のカラクリ」 2014年6月5日 元社員が語る「外食産業」の舞台裏 ツイート 「ワタミはブラック企業だ」と言われますが、その背景として創業者の渡邉美樹氏の発言ばかりがクローズアップされます。しかし社員の過労自殺などを引き起こした労働環境の悪さを生み出した原因は、「24時間365日死ぬまで働け」という理念だけではありません。 現場で働いていた一人として実感したのは、店舗の「管理手法」の非情さでした。もちろん会社が利益を生み出すためには、管理は必要です。ですが、逃れようのない状況に追い込む手法は「管理ではなく強制」と言われても仕方ないでしょう。 飲食店の売上なんて水物なのに (画像はイメージ) そもそも外食産業のようなサービス業では、それに携わる人間が必要です。しかし売上が少ないのに多くの人を使うと、たちまち利益を圧迫します。ワタミでも、売上がいくらなら人件費はいくら、という「人件費の最低限のライン」を決めていました。 そして、このラインをオーバーすることを「ノーコン(人件費の管理不備の意)」と呼び、非常な悪としていたのです。ノーコンをしてしまうと、その店舗の社員は「報告会」と称する土曜日の朝の会合に呼び出され、上司に厳しく説教されます。 この「土曜の朝」という時間帯が大変で、多くの外食店舗では土日は売上が上がります。忙しい営業日の朝なのですね。準備も必要だし、深夜営業に備えて休みもしたい。しかし上司たちはそれを承知で、あえてこの時間帯に呼び出し、ノーコンの理由を報告させるのです。 要は見せしめのような扱いで、「ノーコンすればこんなにも面倒なことになるんだぞ。だからノーコンは止めろよ」というプレッシャーをかけていたのです。 ところが、常識的に考えて飲食店の売上なんて水物です。いつ何人のお客様が来るか正確に分かる人などいません。ある程度の予測は立てられますが、不確定の要素も多く、予測を超えて上がる日もあれば、予測未満に終わってしまう日もあります。 もしも営業中に売上不足が発覚すると、店長は人件費を削りにいかなくてはなりません。そこで勤務中のアルバイトの人に「今日、悪いんだけど、早めにあがってもらえる?」と頼むのです。こうして人件費管理をします。 「会社のしくみ」が現場に不正をさせている 一方、外食の店舗には「最低人時数(さいていにんじすう)」という言葉があります。いくら売上が悪くても「人をこれ以上減らすと店の営業を成り立たせるのは無理」というラインです。厨房は何人、ホールは何人という最低限必要な人数という意味です。 したがって、どんなに売上が低くても、店を開ける限り最低人時数を下回ることはできず、人件費がノーコンしてしまう日が必ず出てくるのですね。 「このままでは絶対にノーコンしてしまう。でも、報告会には行きたくない」 そう考える社員たちは、自分の働いている時間を削って人件費の「偽装」を行います。8時間働いた時間を5時間と偽ってタイムカードで申告し、3時間分の人件費を浮かせてノーコンを回避していました。 ただ、これをやってしまうと、売上に関係なく必ず行わなければならないレジのお金の管理や開店・閉店作業という仕事を、当初の計画より少ない人数で行わなくてはならなくなり、そのしわ寄せは残った社員に来ます。 「人が少ない(=一人当たりの実質的な仕事量が増える)」と「サービス残業(=タダ働き)」のダブルパンチ…。そんな状態で仕事をする場面が、少なからずありました。 ワタミの外部有識者による業務改革検討委員会は、会社に対し「所定労働時間を超える長時間労働が存在している。労働時間を正しく記録していなかったことがある、そのように指示されたことがある」と指摘していました。その裏には、現場の社員による自発的な不正がありましたが、根本には現場にそうさせる「会社のしくみ」があったのです。(ライター:ナイン) あわせてよみたい:元社員が語る「外食産業」の舞台裏 バックナンバー 【プロフィール】ナイン北海道在住の20代後半の男性。大学卒業後、居酒屋チェーンWを運営する会社に正社員として入社。都内店舗のスタッフや副店長として約4年間勤務した後、「もう少し発展性のある仕事がしたい」と転職。現場を知る立場から、外食産業を頭ごなしにブラックと批判する声には「違和感がある」という。Twitter/Facebook/ブログ
ワタミが「ブラック」なのは理念だけでない 現場に責任を押し付ける「会社のカラクリ」
「ワタミはブラック企業だ」と言われますが、その背景として創業者の渡邉美樹氏の発言ばかりがクローズアップされます。しかし社員の過労自殺などを引き起こした労働環境の悪さを生み出した原因は、「24時間365日死ぬまで働け」という理念だけではありません。
現場で働いていた一人として実感したのは、店舗の「管理手法」の非情さでした。もちろん会社が利益を生み出すためには、管理は必要です。ですが、逃れようのない状況に追い込む手法は「管理ではなく強制」と言われても仕方ないでしょう。
飲食店の売上なんて水物なのに
そもそも外食産業のようなサービス業では、それに携わる人間が必要です。しかし売上が少ないのに多くの人を使うと、たちまち利益を圧迫します。ワタミでも、売上がいくらなら人件費はいくら、という「人件費の最低限のライン」を決めていました。
そして、このラインをオーバーすることを「ノーコン(人件費の管理不備の意)」と呼び、非常な悪としていたのです。ノーコンをしてしまうと、その店舗の社員は「報告会」と称する土曜日の朝の会合に呼び出され、上司に厳しく説教されます。
この「土曜の朝」という時間帯が大変で、多くの外食店舗では土日は売上が上がります。忙しい営業日の朝なのですね。準備も必要だし、深夜営業に備えて休みもしたい。しかし上司たちはそれを承知で、あえてこの時間帯に呼び出し、ノーコンの理由を報告させるのです。
要は見せしめのような扱いで、「ノーコンすればこんなにも面倒なことになるんだぞ。だからノーコンは止めろよ」というプレッシャーをかけていたのです。
ところが、常識的に考えて飲食店の売上なんて水物です。いつ何人のお客様が来るか正確に分かる人などいません。ある程度の予測は立てられますが、不確定の要素も多く、予測を超えて上がる日もあれば、予測未満に終わってしまう日もあります。
もしも営業中に売上不足が発覚すると、店長は人件費を削りにいかなくてはなりません。そこで勤務中のアルバイトの人に「今日、悪いんだけど、早めにあがってもらえる?」と頼むのです。こうして人件費管理をします。
「会社のしくみ」が現場に不正をさせている
一方、外食の店舗には「最低人時数(さいていにんじすう)」という言葉があります。いくら売上が悪くても「人をこれ以上減らすと店の営業を成り立たせるのは無理」というラインです。厨房は何人、ホールは何人という最低限必要な人数という意味です。
したがって、どんなに売上が低くても、店を開ける限り最低人時数を下回ることはできず、人件費がノーコンしてしまう日が必ず出てくるのですね。
そう考える社員たちは、自分の働いている時間を削って人件費の「偽装」を行います。8時間働いた時間を5時間と偽ってタイムカードで申告し、3時間分の人件費を浮かせてノーコンを回避していました。
ただ、これをやってしまうと、売上に関係なく必ず行わなければならないレジのお金の管理や開店・閉店作業という仕事を、当初の計画より少ない人数で行わなくてはならなくなり、そのしわ寄せは残った社員に来ます。
「人が少ない(=一人当たりの実質的な仕事量が増える)」と「サービス残業(=タダ働き)」のダブルパンチ…。そんな状態で仕事をする場面が、少なからずありました。
ワタミの外部有識者による業務改革検討委員会は、会社に対し「所定労働時間を超える長時間労働が存在している。労働時間を正しく記録していなかったことがある、そのように指示されたことがある」と指摘していました。その裏には、現場の社員による自発的な不正がありましたが、根本には現場にそうさせる「会社のしくみ」があったのです。(ライター:ナイン)
あわせてよみたい:元社員が語る「外食産業」の舞台裏 バックナンバー
【プロフィール】ナイン
北海道在住の20代後半の男性。大学卒業後、居酒屋チェーンWを運営する会社に正社員として入社。都内店舗のスタッフや副店長として約4年間勤務した後、「もう少し発展性のある仕事がしたい」と転職。現場を知る立場から、外食産業を頭ごなしにブラックと批判する声には「違和感がある」という。Twitter/Facebook/ブログ