「社長が店にやってくる!」 都内のワタミが大混乱に陥った話 2014年8月21日 元社員が語る「外食産業」の舞台裏 ツイート 皆さんの会社では、社長との距離は近いですか。それとも、滅多に会えないくらい遠いでしょうか。私が働いていた当時のワタミは社員だけで4000人近くいましたから、社長と会うことはほとんどありませんでした。 すでに渡邉美樹さんは会長になられ、桑原豊さんにバトンタッチしていましたが、その桑原社長が東京都内の店舗に、たまに視察に来ることがありました。この時、店は決まって大混乱していました。(ライター:ナイン) 焦る管理職「社長オーダーから先に作れ!」 「社長が店にやってくる!」――そう分かったとき、担当エリアの課長や部長も店に駆けつけます。管理職は普段、店には来ません。来るときは決まって「何かあったとき」です。その雰囲気はアルバイトにも伝わります。 ただ私たち社員は、「管理職はわざわざ来なくてもいいのに」と思っていました。なぜなら彼らは現場から長年離れている人が多く、商品の作り方やオーダーの取り方すら覚えていない人も珍しくなかったからです。 したがって、店に来られても手伝いにもならず、かといって注意もしにくいので、変な空気が流れます。さらに管理職が来ると、店のチェックもうるさくなります。「ホールの活気が足りない!」「厨房の床が汚い!」などと厳しくチェックされるのです。 この様子を見て、「こういうときだけ来て偉そうに言うな」と上司の陰口を言う従業員も少なからずいました。とはいえ、社長に注意されれば責任は管理職が負うのですから、分からないでもないのですが。 そうこうするうちに社長が到着すると、店のピリピリムードは一気に頂点に。管理職たちは、とにかく社長のテーブル状況しかチェックしなくなります。 「社長の注文は、とにかく優先して作れ!」 「できたら早く持っていけ!」 一般のお客様を無視した発言を、平気でしていました。他のお客様の料理を作ろうとした私に、「それはいいから、社長オーダーから先に作れよ!」と直接指示したほどです。 当の社長は「これからも頼むよ」と柔和な笑顔 しかし当の社長が、そういう待遇を望んでいたかどうかは分かりません。おそらく「お客さんを最優先に」と考えていたと思います。しかし、もしも自分のオーダーが遅かったら「なぜ遅いの?」「この店はちゃんとやってるの?」と質問された可能性は否定できません。 まぁ、私も同じ会社の会社員でしたから、社長に媚びたい気持ちはわかります。問題が起これば、自分の出世も危うくなりますし。ですが、他のお客様を差し置いて「社長! 社長!」となる上司たちに冷めていたのも事実です。 私はそんな様子を見ながら、「こういう姿勢だからこそ管理職になれたのかな」と思ってしまいました。冷めていた私は「だから出世がおぼつかなかったのかな」とも…。 ところで肝心の桑原社長はというと、特に厳しいことは何も言わない人でした。店舗の視察というより「あいさつ回り」のようなイメージでしょうか。 「今日の料理おいしかったよ」 「いつもありがとう。これからも頼むよ」 といった、ねぎらいの言葉と、柔和な笑顔とともに去っていく人でした。結局「社長の視察」は、上司たちが自分のポイント稼ぎを行うための場だったような気がします。 あわせてよみたい:居酒屋Wの裏側を綴る連載バックナンバー 【プロフィール】ナイン北海道在住の20代後半の男性。大学卒業後、居酒屋チェーンWを運営する会社に正社員として入社。都内店舗のスタッフや副店長として約4年間勤務した後、「もう少し発展性のある仕事がしたい」と転職。現場を知る立場から、外食産業を頭ごなしにブラックと批判する声には「違和感がある」という。Twitter/Facebook/ブログ
「社長が店にやってくる!」 都内のワタミが大混乱に陥った話
皆さんの会社では、社長との距離は近いですか。それとも、滅多に会えないくらい遠いでしょうか。私が働いていた当時のワタミは社員だけで4000人近くいましたから、社長と会うことはほとんどありませんでした。
すでに渡邉美樹さんは会長になられ、桑原豊さんにバトンタッチしていましたが、その桑原社長が東京都内の店舗に、たまに視察に来ることがありました。この時、店は決まって大混乱していました。(ライター:ナイン)
焦る管理職「社長オーダーから先に作れ!」
「社長が店にやってくる!」――そう分かったとき、担当エリアの課長や部長も店に駆けつけます。管理職は普段、店には来ません。来るときは決まって「何かあったとき」です。その雰囲気はアルバイトにも伝わります。
ただ私たち社員は、「管理職はわざわざ来なくてもいいのに」と思っていました。なぜなら彼らは現場から長年離れている人が多く、商品の作り方やオーダーの取り方すら覚えていない人も珍しくなかったからです。
したがって、店に来られても手伝いにもならず、かといって注意もしにくいので、変な空気が流れます。さらに管理職が来ると、店のチェックもうるさくなります。「ホールの活気が足りない!」「厨房の床が汚い!」などと厳しくチェックされるのです。
この様子を見て、「こういうときだけ来て偉そうに言うな」と上司の陰口を言う従業員も少なからずいました。とはいえ、社長に注意されれば責任は管理職が負うのですから、分からないでもないのですが。
そうこうするうちに社長が到着すると、店のピリピリムードは一気に頂点に。管理職たちは、とにかく社長のテーブル状況しかチェックしなくなります。
一般のお客様を無視した発言を、平気でしていました。他のお客様の料理を作ろうとした私に、「それはいいから、社長オーダーから先に作れよ!」と直接指示したほどです。
当の社長は「これからも頼むよ」と柔和な笑顔
しかし当の社長が、そういう待遇を望んでいたかどうかは分かりません。おそらく「お客さんを最優先に」と考えていたと思います。しかし、もしも自分のオーダーが遅かったら「なぜ遅いの?」「この店はちゃんとやってるの?」と質問された可能性は否定できません。
まぁ、私も同じ会社の会社員でしたから、社長に媚びたい気持ちはわかります。問題が起これば、自分の出世も危うくなりますし。ですが、他のお客様を差し置いて「社長! 社長!」となる上司たちに冷めていたのも事実です。
私はそんな様子を見ながら、「こういう姿勢だからこそ管理職になれたのかな」と思ってしまいました。冷めていた私は「だから出世がおぼつかなかったのかな」とも…。
ところで肝心の桑原社長はというと、特に厳しいことは何も言わない人でした。店舗の視察というより「あいさつ回り」のようなイメージでしょうか。
といった、ねぎらいの言葉と、柔和な笑顔とともに去っていく人でした。結局「社長の視察」は、上司たちが自分のポイント稼ぎを行うための場だったような気がします。
あわせてよみたい:居酒屋Wの裏側を綴る連載バックナンバー
【プロフィール】ナイン
北海道在住の20代後半の男性。大学卒業後、居酒屋チェーンWを運営する会社に正社員として入社。都内店舗のスタッフや副店長として約4年間勤務した後、「もう少し発展性のある仕事がしたい」と転職。現場を知る立場から、外食産業を頭ごなしにブラックと批判する声には「違和感がある」という。Twitter/Facebook/ブログ