これじゃあ生きていけません・・・ 会社の「天引き」が多すぎる【弁護士に言っちゃうぞ(3)】 2013年12月16日 弁護士に言っちゃうぞ ツイート 「うちの会社、あまりに天引きが多すぎないですかね」。こう嘆くのは、結婚式場を運営する会社で企画営業を担当するM子さん(26歳)だ。 この会社は毎月、なんだかんだと理由をつけて、決められた給料から「天引き」をするのだという。たとえば、社内では毎月、営業決起大会が行われるが、その飲食代として一人7000円が給与から天引きされる。 年末は取引先の食品会社との関係から、「クリスマスケーキ」や「おせち」の購入が割り当てられ、各1万円が天引きされるそうだ。 極め付きは、会社の寄付。社長が環境保護に熱心で海外への植林ツアーに参加していたが、「社員も貢献すべき」と昨年から環境保護費として月3000円が引かれるようになった。 入社3年目で家賃補助などもなく、給与も低い。これでは生活できないとM子さん。こういった有無を言わさない会社の天引きは許されるものなのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞いてみた。 おかしな控除は労基法違反 ――これは大変ですね。ただでさえ健康保険や厚生年金、雇用保険等に所得税、住民税は少なくないのに、さらに自己負担する必要のなさそうなものを引かれると、納得できないですし、生活にも支障が出かねません。 会社は、従業員の給与からこうした費用を控除することができるのでしょうか。実は給料は、労働基準法24条で「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」とされており、給与からの控除は認められていないのが原則です。 ただ現実には、社会保険料や所得税の源泉徴収のように公益上控除の必要があるものや、社宅料のように費用であることが明白なものもあります。これらについては、手続が簡単になり実情にも沿うことから、法律や労使協定による控除が認められています。 では、営業決起集会の飲食代、クリスマスやお正月のための費用、環境保護費を給与から差し引くことは許されるのでしょうか。私はこうした費用を一方的に給与から差し引くことは、労働基準法24条に抵触して許されないと思います。 いったん給与を支払い、会費として徴収すべき たしかに、労使協定で給料から費用を控除できることがありますが、それが許されるのは「購買代金、社宅、寮その他の福利、厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明白なものについてのみ…控除することを認める趣旨」とされています。 営業決起集会の費用は、このような費用に含まれるのでしょうか。M子さんと同じく、私もそう考えるのは難しいと思います。 決起集会というのは、会社が業務上の必要性から行うものであって、その費用は給与から引くべきではなく、会社の経費として処理すべきものと思われるからです。 また、会社がどうしてもやりたいのであれば、手続き的にも一律に給与から控除するのではなく、いったん給与は全額支払った後で、参加者に会費という形で一部負担してもらう分だけ徴収すればいいのです。これは小さいようで、大きな違いです。 クリスマスやお正月のための費用は、控除が認められる福利厚生になるのでは、という声もありそうです。しかし取引先の商品を強制的に購入させることが、そもそも福利厚生と言えるでしょうか。 少なくとも、希望者からのみ控除するという程度でなければ、控除は違法となります。 まずは用途を確認するところから始める 宗教上の理由から、クリスマスケーキを食べられない従業員もいるかもしれません。そうした方に配慮しないで一律に天引きすれば、信教の問題になりかねません。健康問題や嗜好等でケーキがNGな方もいますので、会社には慎重な配慮が求められるところです。 環境保護費については、集められた金銭の使途があらかじめ明らかになっている場合は許される可能性がありますが、何に使われているかわからない費用の場合は、当然ながら認められません。 法的には、M子さんは給与から控除された各費用の返還を請求できます。それがためらわれるなら、給与明細などの証拠をもって管轄の労基署に相談してもよいかもしれません。 しかし事を荒立てる前に、まずは用途が分からないものについては説明を求めたり、支払いたくないものについて断る方法がないか担当に問い合わせるところから始めてみてはいかがでしょうか。 あわせてよみたい:日本郵便の「自爆営業強制体質」 【取材協力弁護士 プロフィール】 刈谷 龍太(かりや りょうた)弁護士(東京弁護士会所属)。中央大学法科大学院修了。 司法修習第64期。 弁護士法人アディーレ法律事務所 パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を専門に扱う部署に所属。 問題点を的確についたシャープな切り口が持ち味。趣味はサッカー。 公式ブログ「こちら弁護士刈谷龍太の労働相談所」
これじゃあ生きていけません・・・ 会社の「天引き」が多すぎる【弁護士に言っちゃうぞ(3)】
「うちの会社、あまりに天引きが多すぎないですかね」。こう嘆くのは、結婚式場を運営する会社で企画営業を担当するM子さん(26歳)だ。
この会社は毎月、なんだかんだと理由をつけて、決められた給料から「天引き」をするのだという。たとえば、社内では毎月、営業決起大会が行われるが、その飲食代として一人7000円が給与から天引きされる。
年末は取引先の食品会社との関係から、「クリスマスケーキ」や「おせち」の購入が割り当てられ、各1万円が天引きされるそうだ。
極め付きは、会社の寄付。社長が環境保護に熱心で海外への植林ツアーに参加していたが、「社員も貢献すべき」と昨年から環境保護費として月3000円が引かれるようになった。
入社3年目で家賃補助などもなく、給与も低い。これでは生活できないとM子さん。こういった有無を言わさない会社の天引きは許されるものなのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞いてみた。
おかしな控除は労基法違反
――これは大変ですね。ただでさえ健康保険や厚生年金、雇用保険等に所得税、住民税は少なくないのに、さらに自己負担する必要のなさそうなものを引かれると、納得できないですし、生活にも支障が出かねません。
会社は、従業員の給与からこうした費用を控除することができるのでしょうか。実は給料は、労働基準法24条で「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」とされており、給与からの控除は認められていないのが原則です。
ただ現実には、社会保険料や所得税の源泉徴収のように公益上控除の必要があるものや、社宅料のように費用であることが明白なものもあります。これらについては、手続が簡単になり実情にも沿うことから、法律や労使協定による控除が認められています。
では、営業決起集会の飲食代、クリスマスやお正月のための費用、環境保護費を給与から差し引くことは許されるのでしょうか。私はこうした費用を一方的に給与から差し引くことは、労働基準法24条に抵触して許されないと思います。
いったん給与を支払い、会費として徴収すべき
たしかに、労使協定で給料から費用を控除できることがありますが、それが許されるのは「購買代金、社宅、寮その他の福利、厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明白なものについてのみ…控除することを認める趣旨」とされています。
営業決起集会の費用は、このような費用に含まれるのでしょうか。M子さんと同じく、私もそう考えるのは難しいと思います。
決起集会というのは、会社が業務上の必要性から行うものであって、その費用は給与から引くべきではなく、会社の経費として処理すべきものと思われるからです。
また、会社がどうしてもやりたいのであれば、手続き的にも一律に給与から控除するのではなく、いったん給与は全額支払った後で、参加者に会費という形で一部負担してもらう分だけ徴収すればいいのです。これは小さいようで、大きな違いです。
クリスマスやお正月のための費用は、控除が認められる福利厚生になるのでは、という声もありそうです。しかし取引先の商品を強制的に購入させることが、そもそも福利厚生と言えるでしょうか。
少なくとも、希望者からのみ控除するという程度でなければ、控除は違法となります。
まずは用途を確認するところから始める
宗教上の理由から、クリスマスケーキを食べられない従業員もいるかもしれません。そうした方に配慮しないで一律に天引きすれば、信教の問題になりかねません。健康問題や嗜好等でケーキがNGな方もいますので、会社には慎重な配慮が求められるところです。
環境保護費については、集められた金銭の使途があらかじめ明らかになっている場合は許される可能性がありますが、何に使われているかわからない費用の場合は、当然ながら認められません。
法的には、M子さんは給与から控除された各費用の返還を請求できます。それがためらわれるなら、給与明細などの証拠をもって管轄の労基署に相談してもよいかもしれません。
しかし事を荒立てる前に、まずは用途が分からないものについては説明を求めたり、支払いたくないものについて断る方法がないか担当に問い合わせるところから始めてみてはいかがでしょうか。
あわせてよみたい:日本郵便の「自爆営業強制体質」
【取材協力弁護士 プロフィール】
刈谷 龍太(かりや りょうた)
弁護士(東京弁護士会所属)。中央大学法科大学院修了。 司法修習第64期。 弁護士法人アディーレ法律事務所
パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を専門に扱う部署に所属。 問題点を的確についたシャープな切り口が持ち味。趣味はサッカー。 公式ブログ「こちら弁護士刈谷龍太の労働相談所」