匿名で投稿していたツイッター 「本名をバラした人」に損害賠償できないの? 2014年3月19日 弁護士に言っちゃうぞ ツイート 「いやあ、参っちゃいましたよ…」。会社員のAさんは頭を抱えていた。ツイッターの匿名アカウントで昔の上司を批判したところ、思わぬことになってしまったという。 きっかけは、自社の大リストラが取り上げられた雑誌記事。あろうことか元上司のB氏が登場し、「あの会社はもうダメだ。経営者も社員も全然なってない」と言い放っていた。 Aさんは頭に血が上って、「雑誌はなぜこんな人のコメントを取るんだろう」「この人こそ凋落の張本人じゃないのか」とツイッターに投稿してしまった。 「プライバシー権の侵害」が成り立つ可能性あり 事件はその後、大きく発展した。どこからかAさんの正体を聞きつけたB氏は、数万人のフォロワーが見守る中、Aさんの本名と勤務先をバラしてしまったのだ。 それを見た上司や取引先は、「何をバカなことをしてるんだ」とAさんを責めたてた。同僚たちも「次回の人事異動では左遷は確実だろうな」と囁いている。 しかし、Aさんは納得いかない。Aさんが不利益を被ることを承知で実名をさらしたBさんには、何のお咎めもないのか。もし左遷されたら、Bさんに損害賠償を請求することはできないのか。アディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に、話を聞いた。(このケースは、実際の話を元にしたフィクションです。) ――ツイッターのアカウントは、表向きは匿名で運用していても、裏では実名を知る人同士がつながっていることはよくあります。今回の実名発覚は、Aさんとつながっているアカウントの中から、B氏が親しい人を見つけて確認したのかもしれません。 誰でも、本名のみならず、勤務先と部署名、役職まですべてバラされてしまい、数万人のフォロワーに見られてしまったら、心中穏やかではいられませんよね。Aさんの大変辛い気持ちも理解できます。 このような場合、法律的には、Aさんは、Bさんに対して、プライバシー権の侵害を理由とする損害賠償請求できる可能性があります。 本名は「私生活上の秘匿性の高い個人情報」 よく耳にする「プライバシー権」ですが、一般的には「私生活をみだりに公開されない権利」であるとされています。そして、プライバシー権侵害が認められるためには、判例上、以下の3点をみたすことが必要とされています。 (1) 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること (2) 一般人の感覚を基準として、当該私人の立場であれば公開を望まないであろうと認められる事柄であること (3) 一般の人々にいまだ知られていない事柄であること Aさんの場合、本名、勤務先、部署名、役職は、私生活上の秘匿性の高い個人情報であり、(1)をみたします。また、ツイッターは匿名で利用できるサービスであり、一般人の感覚からすれば、個人情報の公開は望まないでしょうから、(2)もみたします。 Aさんの個人情報は一般の人々にいまだ知られていない事柄であると考えられるため、(3)もみたすでしょう。したがって、AさんのBさんに対する損害賠償請求は認められると考えられます。 左遷との間に「因果関係」が認められるか ただし、プライバシー侵害が認められる場合でも、どのような損害が認められるかはケースによって様々です。Aさんが今回の件を理由として左遷されたとしても、それに関する損害も請求できるかの判断は容易ではありません。 Bさんの公表行為と左遷との間に因果関係が認められ、かつ、Aさんがこのような不利益を受けることをBさんが予見していた(または予見できた)か否かによることになります。Aさんはこの部分や、損害額についても証明する必要があるんですね。 なお、まさか実名を公表されるとは思っていなかったとしても、会社の内部事情について投稿してしまった場合にはAさん側にも落ち度がありますので、判決で認められる金額が減額される可能性もあります。いわゆる、過失相殺という問題です。損害賠償を請求する側って、実は、結構大変なんですよね。 ツイッターは、表向きは匿名で運用されていますが、裏では実名を知る人同士がつながっていることがよくあります。どこから個人情報を特定されるか分かりませんので、投稿内容についてはよく吟味して下さい! あわせてよみたい:私の真意は「実名を暴くことではない」 【取材協力弁護士 プロフィール】 岩沙 好幸(いわさ よしゆき)弁護士(第二東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。 頼れる刑事弁護なら≪http://www.adire-bengo.jp/≫
匿名で投稿していたツイッター 「本名をバラした人」に損害賠償できないの?
「いやあ、参っちゃいましたよ…」。会社員のAさんは頭を抱えていた。ツイッターの匿名アカウントで昔の上司を批判したところ、思わぬことになってしまったという。
きっかけは、自社の大リストラが取り上げられた雑誌記事。あろうことか元上司のB氏が登場し、「あの会社はもうダメだ。経営者も社員も全然なってない」と言い放っていた。
Aさんは頭に血が上って、「雑誌はなぜこんな人のコメントを取るんだろう」「この人こそ凋落の張本人じゃないのか」とツイッターに投稿してしまった。
「プライバシー権の侵害」が成り立つ可能性あり
事件はその後、大きく発展した。どこからかAさんの正体を聞きつけたB氏は、数万人のフォロワーが見守る中、Aさんの本名と勤務先をバラしてしまったのだ。
それを見た上司や取引先は、「何をバカなことをしてるんだ」とAさんを責めたてた。同僚たちも「次回の人事異動では左遷は確実だろうな」と囁いている。
しかし、Aさんは納得いかない。Aさんが不利益を被ることを承知で実名をさらしたBさんには、何のお咎めもないのか。もし左遷されたら、Bさんに損害賠償を請求することはできないのか。アディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に、話を聞いた。
(このケースは、実際の話を元にしたフィクションです。)
――ツイッターのアカウントは、表向きは匿名で運用していても、裏では実名を知る人同士がつながっていることはよくあります。今回の実名発覚は、Aさんとつながっているアカウントの中から、B氏が親しい人を見つけて確認したのかもしれません。
誰でも、本名のみならず、勤務先と部署名、役職まですべてバラされてしまい、数万人のフォロワーに見られてしまったら、心中穏やかではいられませんよね。Aさんの大変辛い気持ちも理解できます。
このような場合、法律的には、Aさんは、Bさんに対して、プライバシー権の侵害を理由とする損害賠償請求できる可能性があります。
本名は「私生活上の秘匿性の高い個人情報」
よく耳にする「プライバシー権」ですが、一般的には「私生活をみだりに公開されない権利」であるとされています。そして、プライバシー権侵害が認められるためには、判例上、以下の3点をみたすことが必要とされています。
Aさんの場合、本名、勤務先、部署名、役職は、私生活上の秘匿性の高い個人情報であり、(1)をみたします。また、ツイッターは匿名で利用できるサービスであり、一般人の感覚からすれば、個人情報の公開は望まないでしょうから、(2)もみたします。
Aさんの個人情報は一般の人々にいまだ知られていない事柄であると考えられるため、(3)もみたすでしょう。したがって、AさんのBさんに対する損害賠償請求は認められると考えられます。
左遷との間に「因果関係」が認められるか
ただし、プライバシー侵害が認められる場合でも、どのような損害が認められるかはケースによって様々です。Aさんが今回の件を理由として左遷されたとしても、それに関する損害も請求できるかの判断は容易ではありません。
Bさんの公表行為と左遷との間に因果関係が認められ、かつ、Aさんがこのような不利益を受けることをBさんが予見していた(または予見できた)か否かによることになります。Aさんはこの部分や、損害額についても証明する必要があるんですね。
なお、まさか実名を公表されるとは思っていなかったとしても、会社の内部事情について投稿してしまった場合にはAさん側にも落ち度がありますので、判決で認められる金額が減額される可能性もあります。いわゆる、過失相殺という問題です。損害賠償を請求する側って、実は、結構大変なんですよね。
ツイッターは、表向きは匿名で運用されていますが、裏では実名を知る人同士がつながっていることがよくあります。どこから個人情報を特定されるか分かりませんので、投稿内容についてはよく吟味して下さい!
あわせてよみたい:私の真意は「実名を暴くことではない」
【取材協力弁護士 プロフィール】
岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(第二東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。 頼れる刑事弁護なら≪http://www.adire-bengo.jp/≫