まだ入社2か月なのに… 試用期間中に「退職勧奨」ってありうるの? 2014年6月2日 弁護士に言っちゃうぞ ツイート IT系専門商社に新卒で入社したAさん。入社2か月を終える前に、上司に呼ばれて「君は本採用できそうにないなあ。来月いっぱいで退職してくれないか?」と言われたという。 入社時に伝えられた試用期間は6か月。まだ4か月あるはずだ。しかし上司は「君にはこの仕事は難しいよ。早めに路線変更した方がいいだろうね」とつれない態度だ。 スキルは劣るが「会社が教えてくれるもんでしょ?」 Aさんは他の4名の同期社員と比べると、確かにスキルが劣っているところがあった。文系出身で計算機を使うのも久しぶりだったせいか、経費処理の数字を間違えて経理部から指摘を受けることがたびたびあった。 学生時代にパソコンをいじってこなかったため、表計算ソフトでオリジナル形式の書類を作れと指示されても、対応できなかったこともあった。 一方、Aさん以外の同期入社たちは、同じ仕事を軽々とこなしていたのも事実。とはいえAさんとしては、「そんなこと学生時代に身につけるのはムリ。働きながら会社が教えてくれるもんでしょ?」と不満が募っているという。 「まさかこんなに早くジャッジされるなんて…。せめて6か月の試用期間を待ってもらえないものでしょうか」 Aさんはこのまま退職勧奨に従わず、試用期間の6か月まで働くことはできるのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いてみた。 ――まだ、入社して2か月しかたっていないにもかかわらず、早くも社会の理不尽な問題に直面し、退職勧奨をされるなんて辛いですね。しかも、試用期間があと4か月も残っているなんて…。 まず、退職勧奨とは、会社が労働者に対して自発的な退職意思の形成を促す行為をいいますが、労働者は、いかなる場合も勧奨行為に応じる義務はないとされています。むしろ、社会通念上の相当性を欠く手段・方法による退職勧奨は「退職強要」として違法になります。 今回のご相談者さんは、退職勧奨を受けているとのことですが、退職勧奨に従う必要は全くありませんのでご安心ください。 試用期間でも解雇は「まったくの無制限ではない」 退職勧奨に応じないと、次に会社は解雇をしてくる可能性があります。そうすると今度は、会社が試用期間中に労働者を簡単に解雇できるのかということなってきます。 そもそも試用期間ってよく耳にする言葉ではありますが、正確な法的意味について理解している方は少ないのではないでしょうか。 裁判例では、試用期間を「解約権留保付労働契約」と解釈しています。これは、解約権、つまり労働契約を解約できる権利が企業に残っている状態で締結する労働契約という意味です。 そうすると試用期間中であれば企業は簡単に労働契約を解約(解雇)できることになりそうですね。ところが、裁判所は、本採用拒否について、 「通常の解雇よりは広く認められるが、まったくの無制限ではなく、解約権を行使することが客観的にみて相当でなければならない」 と、やや厳しく判断しているのです。つまり、会社は、試用期間中であれば労働者をいつでも簡単に解雇できるというわけではないのです。 「多少スキルが足りない程度」なら解雇は無効では では、今回のように、ご相談者さんが他の4名の同期社員と比べて事務処理のスキルが劣っていることを理由に解雇することは許されるのでしょうか。 解雇が許されるかどうかは、さまざまな事情から判断されます。採用時にどのような話をしたのかということも重要な考慮要素になりますし、職種や職務内容、労働条件、勤務態度、勤務成績、周囲の評価等も考慮されることになります。 そのため、一概に結論を出すことは難しいですが、同期社員に比べて多少スキルが足りない程度であれば、解雇は無効と判断される可能性が高いと思われます。 今回のように、試用期間であるからといって簡単に解雇することはできません。解雇できるか否かは、本文で触れたような様々な要素によって総合的に判断されることになります。 試用期間に限らず、他の制度について勘違いをしている会社が見受けられるところですので、会社には是非とも労働法に関する正確な知識を身につけて欲しいです。 あわせてよみたい:「弁護士に言っちゃうぞ」バックナンバー 最新記事は@kigyo_insiderをフォロー/キャリコネ編集部Facebookに「いいね!」をお願いします 【取材協力弁護士 プロフィール】 岩沙 好幸(いわさ よしゆき)弁護士(第二東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら≪http://www.adire-roudou.jp/≫
まだ入社2か月なのに… 試用期間中に「退職勧奨」ってありうるの?
IT系専門商社に新卒で入社したAさん。入社2か月を終える前に、上司に呼ばれて「君は本採用できそうにないなあ。来月いっぱいで退職してくれないか?」と言われたという。
入社時に伝えられた試用期間は6か月。まだ4か月あるはずだ。しかし上司は「君にはこの仕事は難しいよ。早めに路線変更した方がいいだろうね」とつれない態度だ。
スキルは劣るが「会社が教えてくれるもんでしょ?」
Aさんは他の4名の同期社員と比べると、確かにスキルが劣っているところがあった。文系出身で計算機を使うのも久しぶりだったせいか、経費処理の数字を間違えて経理部から指摘を受けることがたびたびあった。
学生時代にパソコンをいじってこなかったため、表計算ソフトでオリジナル形式の書類を作れと指示されても、対応できなかったこともあった。
一方、Aさん以外の同期入社たちは、同じ仕事を軽々とこなしていたのも事実。とはいえAさんとしては、「そんなこと学生時代に身につけるのはムリ。働きながら会社が教えてくれるもんでしょ?」と不満が募っているという。
Aさんはこのまま退職勧奨に従わず、試用期間の6か月まで働くことはできるのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いてみた。
――まだ、入社して2か月しかたっていないにもかかわらず、早くも社会の理不尽な問題に直面し、退職勧奨をされるなんて辛いですね。しかも、試用期間があと4か月も残っているなんて…。
まず、退職勧奨とは、会社が労働者に対して自発的な退職意思の形成を促す行為をいいますが、労働者は、いかなる場合も勧奨行為に応じる義務はないとされています。むしろ、社会通念上の相当性を欠く手段・方法による退職勧奨は「退職強要」として違法になります。
今回のご相談者さんは、退職勧奨を受けているとのことですが、退職勧奨に従う必要は全くありませんのでご安心ください。
試用期間でも解雇は「まったくの無制限ではない」
退職勧奨に応じないと、次に会社は解雇をしてくる可能性があります。そうすると今度は、会社が試用期間中に労働者を簡単に解雇できるのかということなってきます。
そもそも試用期間ってよく耳にする言葉ではありますが、正確な法的意味について理解している方は少ないのではないでしょうか。
裁判例では、試用期間を「解約権留保付労働契約」と解釈しています。これは、解約権、つまり労働契約を解約できる権利が企業に残っている状態で締結する労働契約という意味です。
そうすると試用期間中であれば企業は簡単に労働契約を解約(解雇)できることになりそうですね。ところが、裁判所は、本採用拒否について、
と、やや厳しく判断しているのです。つまり、会社は、試用期間中であれば労働者をいつでも簡単に解雇できるというわけではないのです。
「多少スキルが足りない程度」なら解雇は無効では
では、今回のように、ご相談者さんが他の4名の同期社員と比べて事務処理のスキルが劣っていることを理由に解雇することは許されるのでしょうか。
解雇が許されるかどうかは、さまざまな事情から判断されます。採用時にどのような話をしたのかということも重要な考慮要素になりますし、職種や職務内容、労働条件、勤務態度、勤務成績、周囲の評価等も考慮されることになります。
そのため、一概に結論を出すことは難しいですが、同期社員に比べて多少スキルが足りない程度であれば、解雇は無効と判断される可能性が高いと思われます。
今回のように、試用期間であるからといって簡単に解雇することはできません。解雇できるか否かは、本文で触れたような様々な要素によって総合的に判断されることになります。
試用期間に限らず、他の制度について勘違いをしている会社が見受けられるところですので、会社には是非とも労働法に関する正確な知識を身につけて欲しいです。
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【取材協力弁護士 プロフィール】
岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(第二東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら≪http://www.adire-roudou.jp/≫