• 急病でも「当日申請ダメ」 これじゃ有休消化なんかできっこない!

    Aさんが勤務する工場では、この4月から工場長が変わりました。前の工場長は「従業員は財産。安全第一」が口ぐせで、社員からとても慕われていました。

    しかし今度の工場長は、他の現場でも「スパルタ」で有名で、生産量アップのために「従業員を厳しくこき使う」という噂の人です。

    ある日、Aさんが出勤しようとすると、激しいめまいがして起き上がれなくなりました。しばらく横になっていましたが、おさまる気配はありません。

    工場長「有休の申請は3日前じゃないと」

    オニ! アクマ!オニ! アクマ!

    これ以上ひどくなったら救急車かなと思いつつ、とりあえず職場に電話をすると、工場長が出ました。事情を話し、今日は有給休暇を取らせてもらうかもしれないと申し出ると、

    「おいおい、急に休まれると困るんだよなあ。有休の申請は3日前じゃないとダメだろ? 当日申請は欠勤扱いになるけど、いいよな!」

    と冷たく言い放たれてしまいました。

    確かに工場のルールではそうなっていましたが、急病は予期できません。職場の人員を追加調達するとか迷惑を掛けるけど、有休もほとんど消化せずに残っているのに、この無神経な言い方はなんだろうか。

    とはいえ、今更どうしようもないので、Aさんは「別にいいですけど、欠勤で……。とにかく行けません」と伝え、その日は病院に行って仕事を休みました。

    給料日に明細を見ると、やはり「欠勤1日」になっていましたが、Aさんは何か納得がいきません。急病でも有休取得ができないなんて、法律的に問題はないのだろうか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いてみた。

    ――朝起きたら会社に行けなくなるほどの体調不良に突然なっていることって、ありますよね。悪気があって欠勤するわけではないので、会社には有給休暇の取得を認めてもらいたいところです。

    労働者の「時季指定権」VS使用者の「時季変更権」

    さて、有給休暇の請求について、労働基準法は「使用者は…有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」と規定しているので、原則として労働者は自己が請求する時季に有給休暇を取得することができます。これを労働者の《時季指定権》といいます(39条5項本文)。

    ただし使用者は、「請求された時期に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」は有給休暇を他の時期に変更することができます。これを使用者の《時季変更権》といいます(39条5項但書)。

    会社の多くは、就業規則で「有給休暇の申請は○日前まで」と一定の制限をおいています。これは有給休暇を請求された場合、会社が事業の正常な運営を妨げる事由の存否を判断し、時季変更権を行使するかどうか、ある程度の時間が必要となるからです。

    今回のご相談さんの会社でも「有給申請は3日前までにする」という就業規則があります。これは上記判断をするにあたって合理的な期間といえますので、適法かつ有効な定めといえます。それでは、この就業規則に反するという理由だけで、会社は時季変更権の行使をすることができるのでしょうか。

    事業運営に影響なければ「未払い賃金の請求」できる

    そもそも、有給休暇は、計画に従って一定の期間を指定して請求し、使用者が業務の正常な運営の維持という観点から一定の場合に時季の変更権を行使するというのが本来のあり方です。

    しかし実際は、体調不良など突然の理由による欠勤について賃金を失わないよう、有休を振り替えて利用するというケースもかなり多いです。

    したがって「有給申請は3日前までにする」という就業規則に反するとの一事をもって、会社が時季変更権を行使することには問題があると思います。

    結局のところ「事業の正常な運営を妨げる」かどうかについて、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断し、会社の時季変更権の行使の適法性を判断する必要があるでしょう。今回のご相談内容も、上記のメルクマールにしたがって事実関係を精査する必要があります。

    仮に「事業の正常な運営を妨げる」事情がなかったとすると、依頼者の時季指定権の行使は有効であり、依頼者は欠勤と取り扱われた分について未払い賃金の請求をすることができます。ご相談者の方も、一度、自分なりに分析してみて、会社と再度交渉してみてはいかがでしょうか。

    あわせてよみたい:「弁護士に言っちゃうぞ」バックナンバー

    最新記事は@kigyo_insiderをフォロー/キャリコネ編集部Facebookに「いいね!」をお願いします

    【取材協力弁護士 プロフィール】

    岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
    弁護士(第二東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。頼れる労働トラブル解決なら≪http://www.adire-roudou.jp/

  • 企業ニュース
    アクセスランキング

    働きやすい企業ランキング

    年間決定実績1,000件以上の求人データベース Agent Navigation
    転職相談で副業