• 「制服に着替える時間にも給料は支払われるか?」問題を弁護士が解説

    画像はイメージ

    業務開始前、かなりの余裕を持って出勤しろと言われる職場は珍しくない。特に、制服着用が義務だったり、ちょっとした朝会があったりする職場では、毎朝15分〜20分の「早出」を余儀なくされるケースもある。こうした時間は無給とされることも多いように思えるが、本来は「お仕事の時間(勤務時間)」なのでは? 実際に裁判になったらどうなるのかを、労働問題に詳しい林たかまさ弁護士に教えてもらった。

    裁判所が「制服に着替える時間の給料を払え」と命じた事件を解説します(アートコーポレーションほか事件:東京高裁 R3.3.24)

    「どんな時間なら給料をもらえるか?」についても解説しています。

    ※ 争いを一部抜粋して簡略化し、判決の本質を損なわないように注意しつつ、一部フランクな会話に変換しています。

    当事者

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ▼ 会社
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ・引越し関連事業を展開

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ▼ Xさんたち3名
    ━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ・引越作業員やドライバーとして働いていた
    ・全員、退職ずみ

    どんな事件か

    Xさんたちは退職してから会社を訴えました。主張は多岐にわたるのですが、その中に「制服を着替える時間分の給料を払ってください」という内容が含まれていました。

    Xさんたちは毎朝、「出勤→制服に着替え→ラジオ体操→朝礼」というルーチンをこなしていました。

    Xさんたちは出勤時刻=勤務開始時刻だと主張。一方、会社側は「勤務開始は朝礼が終わってからだ」だと反論していました。

    ジャッジ

    裁判所
    「制服に着替える時間の給料を払え」

    ーーー 裁判所さん、その理由は?

    裁判所
    「制服に着替えることが義務づけられていたので、会社の指揮命令下に置かれていたと評価できるからです」

    ■解説

    ポイントは「会社の指揮命令下」にあるかどうかです。会社の指揮命令下であれば給料をもらえます。そういう状況なら労働時間と言えるからです。最高裁が言ってます(三菱重工業長崎造船所事件:最高裁 H12.3.9)

    厚生労働省のガイドラインにもそう示されているんです。

    ====
    使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
    参照:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
    ====

    ーーラジオ体操の時間は、どうでしょう?

    裁判所
    「今回のケースだと、ラジオ体操の時間は、会社の指揮命令下に置かれていたとはいえません。だって、従業員全員が集合しているわけではなく、音楽が流れてから順次集まってくる感じだったからです。Xさんたちの話によれば、支店長もその時点では朝礼の場にいなかったこともあるようなので、参加が義務づけられていたとはいえませんね」

    ■解説

    BGMタイプだったので負けちゃいましたね。このタイプではなく【全員集合してラジオ体操だ!】タイプであれば、会社の指揮命令下にあると認定してくれる可能性があります。めんどくせ〜ラジオ体操を義務づけられている方は未払い給料をゲットできる可能性ありです。

    Xさんたちがゲットできた残業代は以下のとおりです(着替え時間以外の給料も含む)

    ====
    X1 約29万円
    X2 約47万円
    X3 約31万円
    ====

    お仕置き

    このケースでは、裁判所が会社に【お仕置き】をしました。「残業代の不払いが悪質だなぁ〜」と判断すれば裁判所はお仕置きを命じるんです(付加金・労働基準法114条)。具体的には以下の事情を考慮します。

    ====
    会社の労働基準法違反の程度・態様,労働者の不利益の性質・内容、上記違反に至る経緯やその後の使用者 の対応等諸般の事情
    ====

    お仕置きの金額をいくらにするかは、裁判所のサジ加減ひとつです。今回のお仕置き金額は以下のとおり

    ====
    X1さんに 約18万円はらえ
    X2さんに 約35万円はらえ
    X3さんに 約22万円はらえ
    ====

    地方裁判所はお仕置きをしなかったんですが、高裁はお仕置きをしました。

    ーー高裁さん、なぜお仕置きを?

    高等裁判所
    「地裁判決が出て負けたのに、その後も支払拒絶を継続しており、会社の控訴理由を見ても合理的とは言いがたいからです」

    裁判所は、判決が確定するまでの間の会社の態度をつぶさに観察しているようです。

    裁判官が「この不払いはクソだ!」とブチギレれば最大で倍返し(半沢直樹)を命じることもあります(たとえば残業代が100万円としたら付加金を100万円もプラスして、合計200万円の支払いを命じます。裁判官を怒らせたら怖いのです)

    この時間、給料でないんですけど…

    「残業代」をめぐってよくあるもう一つのトラブルが、「休憩時間なのに休憩できねー! 働いてるから給料を払ってほしい」というものです。

    2つ裁判例をご紹介します。

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    ▼ ガソリンスタンドでの来客対応
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    あるガソリンスタンドは基本的には1人体制でした。なので以下のルールがありました。

    ====
    従業員雇用規定
    申し訳ありませんが休憩している間も営業に支障をきたさないように業務を優先して行ってください。休憩時間内に業務を行った場合はその分を振り替えて他の時間に取って頂けるようにお願いします
    ====

    ふざけんなって話ですよね。社員さんは残業代をゲットしました(クアトロ〈ガソリンスタンド〉事件:東京地裁 H17.11.11)

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    ▼ 来客対応
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    薬局での事件です。薬剤師さんは、お昼休憩になったあとも30分くらい来客対応をしていました。しかし、会社はこの時間分の給料を払わず。

    裁判所は「この分、残業代を払え」と判断しました(日本ケミカル事件控訴審:東京高裁 H29.2.1)。「休憩時間でも来客対応しなさいよ」と暗にプレッシャーがかけられていたようです。

    さいごに

    着替え時間について給料を払っている会社は、ほぼナイと思います。流れ星を見る確率より低いと思います。しかし、裁判になれば話は別です。上にあげた事件のほか、「待機時間」も会社の指揮命令下に置かれていると判断されれば残業代を請求できます。

    ポイントは、会社の指揮命令下に置かれているかどうかです。「なんでこの時間の給料が出ないんだよ…」と憤っている方がおられたら、労働局や弁護士の無料相談に行ってみることをオススメします。

    今回は以上です。これからも職場トラブルに対処するための知恵をお届けしていきます!

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