急成長する高速バス 新制度で生き残りをかけた戦国時代に突入 2012年10月11日 企業徹底研究 ツイート 10月14日は「鉄道の日」。鉄道各社ではさまざまなイベントが開催され、「鉄ちゃん」のマニア心を熱くさせそうだ。ここで質問。今、「鉄道の最大のライバル」とは何だろうか? 例えば、「飛行機」という答えは残念ながら正解とはいえないだろう。なぜなら、東京からの日帰り出張なら「岡山までは新幹線、四国と九州は完全に飛行機」というように、鉄道と空路のすみ分けがだいたいできているからだ。LCC(格安航空会社)も運賃が鉄道より安くても、利用できる空港が遠かったり、搭乗手続きに国際線並みの時間がかかるなど不便さがある。 実は鉄道の最大のライバルとなっているは「高速バス」だ。 首都圏では、新宿-甲府間の場合、バス会社3社がほぼ30分ごとに運行。所要時間の差が20~30分しかないJR中央線の特急の乗客を奪っている。 千葉県木更津市では、東京直結のアクアライン経由高速バスの停留所周辺にアウトレットモールなどの商業施設が建ち、今やJR木更津駅前をしのぐほどのにぎわいになっている。その影響をもろに受けたJR内房線の特急は、本数が大幅に減ってしまった。 九州の小倉-博多間ではなんと、1時間以上かかる高速バスが低運賃を武器に16分で着く新幹線と勝負しており、北九州市と福岡市の間は全国で最も高速バスの運行本数が多い。 新幹線のドル箱、東京-大阪間も夜行高速バスの運行本数が急増。新幹線が走る時間帯にも高速バスが運行され、早い安い乗り換えなしで寝て行けると、なかなかの人気だ。 鉄道の利用者を取り込み始めた高速バス。今回は、キャリコネに寄せられた各社社員の口コミも見ながら高速バス業界について分析していこう。 ◇ バス業界で唯一、右肩上がりで成長する分野 高速バスは勢いがあっても、「バス」という乗り物自体は長期低落傾向にある。 日本バス協会の統計資料集「日本のバス事業」によると、乗合バス事業者の全国統計ではピークの年と比較すると、車両数は75年の6.8万台から、08年には5.9万台に減った。 年間輸送人員も68年の101億人から、09年には42億人、営業収入は92年の1兆2331億円から、08年には9924億円と、それぞれ大きく落ち込んでいる。 その中で、高速バスだけは平成になってから急速に成長。1989年から2009年までの20年間で、運行系統数は8.5倍、1日の運行回数は4.3倍、輸送人員は2.5倍まで伸びた。 特に2007年以降の伸びは顕著で、日本バス協会の統計に入っていない高速ツアーバスを加えると、成長の度合いはさらに大きくなる。 2009年の年間輸送人員は、高速バス、高速ツアーバスを合計すると1億1472万人。日本国民全員が1年に最低1度は高速バスを利用している計算になる。もはや「国民的交通機関」になったと言っても過言ではないだろう。 新東名や新名神のような高速道路網の整備・拡充、長引く不況による節約志向の高まりの追い風を受け、右肩上がりで成長する高速バス。それは鉄道の在来線だけでなく、新幹線とも勝負できるバス業界の期待の星なのだ。 ◇ 高速乗合バスと高速ツアーバスの熾烈な競争 ひとことで高速バスといっても、今年7月までは「高速乗合バス」と「高速ツアーバス」の2種類が存在した。見た目は同じ大型バスだが、国土交通省ではこの2つを全く異なる業態として扱っていた。 具体的には、高速乗合バスは「道路運送法」に基づく「路線バス事業者」が運行し、鉄道のように乗客から「運賃」を徴収して営業する。 一方の高速ツアーバスは「旅行業法」に基づいて旅行代理店などの「主催者」が貸切バス業者から観光バスを借り上げ、「募集型企画旅行」という形で集客する。 高速ツアーバスでは、利用者は正確には「乗客」ではなく「ツアー参加者」になる。支払うおカネも「運賃」ではなく「旅行代金」。高速乗合バスと違って停留所はなく、バスが横付けする建物が乗車場所になっている。 また、「募集型企画旅行」とは、例えば「東京発・日光日帰りバスツアー」のようなものを指す。以前は路線バスの事業認可を受けなくても営業が可能で、法律の抜け穴を巧みについた商法だった。 建前がツアーだから、乗客が1人も集まらなければ中止(運休)も可能。料金設定も自由。高速乗合バスは乗客ゼロでも運行が義務づけられており、運賃は認可制だった。 国土交通省の「バス事業のあり方検討会」資料では、激戦区間の「首都圏-京阪神」では年間輸送人員が高速乗合バス116.6万人に対し高速ツアーバス115.6万人と互角となっている。 一方、「首都圏-仙台」になると、2009年度では18.7万人対55.6万人で高速ツアーバスが圧勝。同区間の昼行便は5時間以上かかるが3000円台からの低運賃で、東北新幹線から乗客を奪うほどの勢いとなっている。 ◇ バス会社社員が最も恐れるのは大事故 低価格で人気を集める高速バスだが、いくら安くても、安全性と引き換えにすることはできない。しかし、現場では必ずしも、その考えが反映されているとはいえないようだ。 まずは、大阪-広島間で、「信頼の大手路線バス会社自社運行」を宣伝文句に営業しているバス会社の社員の口コミを見てみよう。 「運転士は、休日が月2~4日、労働時間が月200時間以上の過酷労働を強いられている。会社の体質は、現場無視、本社の人間だけで決める極めて古い体質」(南海バス、20代前半の男性契約社員) 別の会社では、こんな社員の声もあった。この口コミを見ると、高速バスを利用するのがちょっと怖くなりそうだ。 「労働環境が、かなりハードなので、倒れて職場から救急車で運ばれる社員を数名目撃しました。社員は会社にとって財産と思い待遇をもう少し良くすることにより過労から来る事故などが少し減ると思います」(阪急バス、20代後半の男性契約社員) この会社では、同じドライバー職でも正社員と契約社員では待遇が全く異なるという。契約社員は正社員と同じ業務でも基本給が少なく、ボーナスは約半分で残業時間もカットされる。有給休暇も少なく、運行管理者の話し方も違うという。また、会社によっては、実績を積めば正社員になれるところもある。 「普通に働いて手取り18万くらい。公休出勤2回して残業50時間くらいしたら手取り20万超えるくらいです。正社員になれば普通に働いて手取り20万は超えます。正社員には正確には5年後になれます。3年間は非正規雇用です」(京阪バス、20代後半の男性契約社員、年収400万円) 一方、現場の雰囲気は、鉄道などと同じく「体育会系」的な人間関係のようだ。 「とにかく、伝統や先輩といった言葉が重んじられていて、自分の仕事が終わっても帰る事が出来ず、バスの掃除を手伝わされる。朝は一番早く起きなければいけない、食事の最中も自分より先輩にあたる人達のコップに目を光らせ、空になる前に飲み物を注がなければいけないなど、本来の仕事よりも変なしきたりのせいで精神的に追い詰められる」(道南バス、10代後半の女性社員) ドライバーもそれ以外の社員も、バスが好きでないと長続きしないということなのだろうか。 「安全性」という点では、バス会社の経営者と社員が、最も恐れるのが大きな事故だ。事態によっては、会社の存続が危ぶまれ失業に直面する。例えば、さくら観光のベテランの男性社員はこう言う。 「将来性に不安がある業界です。先日の磐越道の交通事故を受け、社会的影響もあり今後の企画、経営などはどうなるのでしょう。国土交通省、旅行業界等の規制、指導、制約等が未整理、課題山積み。見切り発車ですね。この業界他社も含めてすべてに同じことが言えます」 「磐越道の交通事故」とは、2005年4月に福島県猪苗代町で大阪-仙台間の近鉄バスの高速乗合バスが横転して乗客3人が死亡、24人が重軽傷を負った大事故のことだ。 さくら観光は、首都圏-仙台間などの高速ツアーバスを運行する。親会社の桜交通は福島-仙台間、郡山-仙台間などで高速乗合バスを運行していたが、共同運行していた富士交通の経営破たんに伴い撤退した。 そこで、さくら観光が桜交通のバスを使って営業を行っている。同社の「仙台ライナー」は東北新幹線から乗客を奪い業績好調で、仙台駅東口に専用乗降場「さくらターミナル」まで開設した。しかし、社員は過去に起きた他社の事故とはいえ、その影響に不安を感じている。 死亡事故といえば、今年のゴールデンウィーク中の4月29日、関越自動車道でドライバーの居眠り運転が原因で高速ツアーバスが防音壁に衝突する事故が起き、乗客7人が死亡し39人が重軽傷を負った。 ドライバーと貸切バス会社、陸援隊の社長は逮捕され、高速ツアーバスの大手だった旅行会社、ハーヴェストホールディングスは事業を停止し破産してしまった。 ◇ 「新高速乗合バス」の戦国乱世が始まる アメリカ映画の名作「真夜中のカーボーイ」(1969年)は、テキサスの田舎町からニューヨーク行き高速バスの場面で始まり、ニューヨークからフロリダ行きの高速バスのシーンで終わる。どちらも日本列島を縦断できるような長距離だ。 米国では「グレイハウンドバス」に代表される高速バスに対し、映画の主人公のような「クルマが持てず飛行機にも乗れない貧乏人」が我慢して乗るものという偏見が今もある。また、バス停がゴミが散乱するガラの悪い場末にあることも、それを助長している。 しかし、日本の高速バスにはそんな偏見はない。女性一人でも乗れるほど安全で、車内は世界のどこの高速バスよりも快適な座席作りがされている。そして、順調に業績を伸ばしてきた。 しかし、今年4月の関越道の死亡事故では、前出の口コミにもあるような勤務体制の問題がクローズアップされた。その影響で高速バス、特に高速ツアーバスに逆風が吹き、乗客は減少した。 こうした中、今年7月31日に国土交通省自動車局は「バス事業のあり方検討会」の最終報告書を受け、高速乗合バスと高速ツアーバスを一本化した「新高速乗合バス」の新制度をスタートさせた。 新制度では、貸切バスを借りて運行する高速ツアーバスも道路運送法の規制の下に置き、国土交通大臣の事業認可が必要とした。また、安全性の確保で「厳格な制度設計を行う」とする一方、高速乗合バスにも高速ツアーバスの需要に応じた柔軟な価格設定を取り入れた。 この制度で高速バス業界には、どんな影響があったのか。それは高速ツアーバスにとっては規制強化、高速乗合バスにとっては運賃競争という変化だ。これを受け、これから予想されるのが「業界再編」だ。 新制度に沿って、安全性確保のために「2人乗務」などドライバーの勤務体制を改善すればコストアップとなり、価格競争で勝つには厳しくなる。 そうなれば、高速乗合バスでトップシェアのJRバスグループのように規模が大きく、自社でバスやドライバーをやりくりしやすい会社が有利になるだろう。そして、借り物で運行して健闘していた高速ツアーバスの小規模業者は淘汰されていく可能性が高い。 新たなルールで幕を開けた高速バスの戦国時代。関東でも、関西でも、東北でも、九州でも、新制度の下で生き残りをかけてのガチンコ勝負が、これから本格的に始まる。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年9月末現在、45万社、20万件の口コミが登録されています。
急成長する高速バス 新制度で生き残りをかけた戦国時代に突入
10月14日は「鉄道の日」。鉄道各社ではさまざまなイベントが開催され、「鉄ちゃん」のマニア心を熱くさせそうだ。ここで質問。今、「鉄道の最大のライバル」とは何だろうか?
例えば、「飛行機」という答えは残念ながら正解とはいえないだろう。なぜなら、東京からの日帰り出張なら「岡山までは新幹線、四国と九州は完全に飛行機」というように、鉄道と空路のすみ分けがだいたいできているからだ。LCC(格安航空会社)も運賃が鉄道より安くても、利用できる空港が遠かったり、搭乗手続きに国際線並みの時間がかかるなど不便さがある。
実は鉄道の最大のライバルとなっているは「高速バス」だ。
首都圏では、新宿-甲府間の場合、バス会社3社がほぼ30分ごとに運行。所要時間の差が20~30分しかないJR中央線の特急の乗客を奪っている。
千葉県木更津市では、東京直結のアクアライン経由高速バスの停留所周辺にアウトレットモールなどの商業施設が建ち、今やJR木更津駅前をしのぐほどのにぎわいになっている。その影響をもろに受けたJR内房線の特急は、本数が大幅に減ってしまった。
九州の小倉-博多間ではなんと、1時間以上かかる高速バスが低運賃を武器に16分で着く新幹線と勝負しており、北九州市と福岡市の間は全国で最も高速バスの運行本数が多い。
新幹線のドル箱、東京-大阪間も夜行高速バスの運行本数が急増。新幹線が走る時間帯にも高速バスが運行され、早い安い乗り換えなしで寝て行けると、なかなかの人気だ。
鉄道の利用者を取り込み始めた高速バス。今回は、キャリコネに寄せられた各社社員の口コミも見ながら高速バス業界について分析していこう。
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バス業界で唯一、右肩上がりで成長する分野
高速バスは勢いがあっても、「バス」という乗り物自体は長期低落傾向にある。
日本バス協会の統計資料集「日本のバス事業」によると、乗合バス事業者の全国統計ではピークの年と比較すると、車両数は75年の6.8万台から、08年には5.9万台に減った。
年間輸送人員も68年の101億人から、09年には42億人、営業収入は92年の1兆2331億円から、08年には9924億円と、それぞれ大きく落ち込んでいる。
その中で、高速バスだけは平成になってから急速に成長。1989年から2009年までの20年間で、運行系統数は8.5倍、1日の運行回数は4.3倍、輸送人員は2.5倍まで伸びた。
特に2007年以降の伸びは顕著で、日本バス協会の統計に入っていない高速ツアーバスを加えると、成長の度合いはさらに大きくなる。
2009年の年間輸送人員は、高速バス、高速ツアーバスを合計すると1億1472万人。日本国民全員が1年に最低1度は高速バスを利用している計算になる。もはや「国民的交通機関」になったと言っても過言ではないだろう。
新東名や新名神のような高速道路網の整備・拡充、長引く不況による節約志向の高まりの追い風を受け、右肩上がりで成長する高速バス。それは鉄道の在来線だけでなく、新幹線とも勝負できるバス業界の期待の星なのだ。
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高速乗合バスと高速ツアーバスの熾烈な競争
ひとことで高速バスといっても、今年7月までは「高速乗合バス」と「高速ツアーバス」の2種類が存在した。見た目は同じ大型バスだが、国土交通省ではこの2つを全く異なる業態として扱っていた。
具体的には、高速乗合バスは「道路運送法」に基づく「路線バス事業者」が運行し、鉄道のように乗客から「運賃」を徴収して営業する。
一方の高速ツアーバスは「旅行業法」に基づいて旅行代理店などの「主催者」が貸切バス業者から観光バスを借り上げ、「募集型企画旅行」という形で集客する。
高速ツアーバスでは、利用者は正確には「乗客」ではなく「ツアー参加者」になる。支払うおカネも「運賃」ではなく「旅行代金」。高速乗合バスと違って停留所はなく、バスが横付けする建物が乗車場所になっている。
また、「募集型企画旅行」とは、例えば「東京発・日光日帰りバスツアー」のようなものを指す。以前は路線バスの事業認可を受けなくても営業が可能で、法律の抜け穴を巧みについた商法だった。
建前がツアーだから、乗客が1人も集まらなければ中止(運休)も可能。料金設定も自由。高速乗合バスは乗客ゼロでも運行が義務づけられており、運賃は認可制だった。
国土交通省の「バス事業のあり方検討会」資料では、激戦区間の「首都圏-京阪神」では年間輸送人員が高速乗合バス116.6万人に対し高速ツアーバス115.6万人と互角となっている。
一方、「首都圏-仙台」になると、2009年度では18.7万人対55.6万人で高速ツアーバスが圧勝。同区間の昼行便は5時間以上かかるが3000円台からの低運賃で、東北新幹線から乗客を奪うほどの勢いとなっている。
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バス会社社員が最も恐れるのは大事故
低価格で人気を集める高速バスだが、いくら安くても、安全性と引き換えにすることはできない。しかし、現場では必ずしも、その考えが反映されているとはいえないようだ。
まずは、大阪-広島間で、「信頼の大手路線バス会社自社運行」を宣伝文句に営業しているバス会社の社員の口コミを見てみよう。
「運転士は、休日が月2~4日、労働時間が月200時間以上の過酷労働を強いられている。会社の体質は、現場無視、本社の人間だけで決める極めて古い体質」(南海バス、20代前半の男性契約社員)
別の会社では、こんな社員の声もあった。この口コミを見ると、高速バスを利用するのがちょっと怖くなりそうだ。
「労働環境が、かなりハードなので、倒れて職場から救急車で運ばれる社員を数名目撃しました。社員は会社にとって財産と思い待遇をもう少し良くすることにより過労から来る事故などが少し減ると思います」(阪急バス、20代後半の男性契約社員)
この会社では、同じドライバー職でも正社員と契約社員では待遇が全く異なるという。契約社員は正社員と同じ業務でも基本給が少なく、ボーナスは約半分で残業時間もカットされる。有給休暇も少なく、運行管理者の話し方も違うという。また、会社によっては、実績を積めば正社員になれるところもある。
「普通に働いて手取り18万くらい。公休出勤2回して残業50時間くらいしたら手取り20万超えるくらいです。正社員になれば普通に働いて手取り20万は超えます。正社員には正確には5年後になれます。3年間は非正規雇用です」(京阪バス、20代後半の男性契約社員、年収400万円)
一方、現場の雰囲気は、鉄道などと同じく「体育会系」的な人間関係のようだ。
「とにかく、伝統や先輩といった言葉が重んじられていて、自分の仕事が終わっても帰る事が出来ず、バスの掃除を手伝わされる。朝は一番早く起きなければいけない、食事の最中も自分より先輩にあたる人達のコップに目を光らせ、空になる前に飲み物を注がなければいけないなど、本来の仕事よりも変なしきたりのせいで精神的に追い詰められる」(道南バス、10代後半の女性社員)
ドライバーもそれ以外の社員も、バスが好きでないと長続きしないということなのだろうか。
「安全性」という点では、バス会社の経営者と社員が、最も恐れるのが大きな事故だ。事態によっては、会社の存続が危ぶまれ失業に直面する。例えば、さくら観光のベテランの男性社員はこう言う。
「将来性に不安がある業界です。先日の磐越道の交通事故を受け、社会的影響もあり今後の企画、経営などはどうなるのでしょう。国土交通省、旅行業界等の規制、指導、制約等が未整理、課題山積み。見切り発車ですね。この業界他社も含めてすべてに同じことが言えます」
「磐越道の交通事故」とは、2005年4月に福島県猪苗代町で大阪-仙台間の近鉄バスの高速乗合バスが横転して乗客3人が死亡、24人が重軽傷を負った大事故のことだ。
さくら観光は、首都圏-仙台間などの高速ツアーバスを運行する。親会社の桜交通は福島-仙台間、郡山-仙台間などで高速乗合バスを運行していたが、共同運行していた富士交通の経営破たんに伴い撤退した。
そこで、さくら観光が桜交通のバスを使って営業を行っている。同社の「仙台ライナー」は東北新幹線から乗客を奪い業績好調で、仙台駅東口に専用乗降場「さくらターミナル」まで開設した。しかし、社員は過去に起きた他社の事故とはいえ、その影響に不安を感じている。
死亡事故といえば、今年のゴールデンウィーク中の4月29日、関越自動車道でドライバーの居眠り運転が原因で高速ツアーバスが防音壁に衝突する事故が起き、乗客7人が死亡し39人が重軽傷を負った。
ドライバーと貸切バス会社、陸援隊の社長は逮捕され、高速ツアーバスの大手だった旅行会社、ハーヴェストホールディングスは事業を停止し破産してしまった。
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「新高速乗合バス」の戦国乱世が始まる
アメリカ映画の名作「真夜中のカーボーイ」(1969年)は、テキサスの田舎町からニューヨーク行き高速バスの場面で始まり、ニューヨークからフロリダ行きの高速バスのシーンで終わる。どちらも日本列島を縦断できるような長距離だ。
米国では「グレイハウンドバス」に代表される高速バスに対し、映画の主人公のような「クルマが持てず飛行機にも乗れない貧乏人」が我慢して乗るものという偏見が今もある。また、バス停がゴミが散乱するガラの悪い場末にあることも、それを助長している。
しかし、日本の高速バスにはそんな偏見はない。女性一人でも乗れるほど安全で、車内は世界のどこの高速バスよりも快適な座席作りがされている。そして、順調に業績を伸ばしてきた。
しかし、今年4月の関越道の死亡事故では、前出の口コミにもあるような勤務体制の問題がクローズアップされた。その影響で高速バス、特に高速ツアーバスに逆風が吹き、乗客は減少した。
こうした中、今年7月31日に国土交通省自動車局は「バス事業のあり方検討会」の最終報告書を受け、高速乗合バスと高速ツアーバスを一本化した「新高速乗合バス」の新制度をスタートさせた。
新制度では、貸切バスを借りて運行する高速ツアーバスも道路運送法の規制の下に置き、国土交通大臣の事業認可が必要とした。また、安全性の確保で「厳格な制度設計を行う」とする一方、高速乗合バスにも高速ツアーバスの需要に応じた柔軟な価格設定を取り入れた。
この制度で高速バス業界には、どんな影響があったのか。それは高速ツアーバスにとっては規制強化、高速乗合バスにとっては運賃競争という変化だ。これを受け、これから予想されるのが「業界再編」だ。
新制度に沿って、安全性確保のために「2人乗務」などドライバーの勤務体制を改善すればコストアップとなり、価格競争で勝つには厳しくなる。
そうなれば、高速乗合バスでトップシェアのJRバスグループのように規模が大きく、自社でバスやドライバーをやりくりしやすい会社が有利になるだろう。そして、借り物で運行して健闘していた高速ツアーバスの小規模業者は淘汰されていく可能性が高い。
新たなルールで幕を開けた高速バスの戦国時代。関東でも、関西でも、東北でも、九州でも、新制度の下で生き残りをかけてのガチンコ勝負が、これから本格的に始まる。
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