• 「5年で辞めたら50万円」はワナ? 米アマゾンが試す「社員の献身性」

    会社にとって、人材は非常に大事な経営資源のひとつだ。熟練した社員を育成することは、そう簡単ではない。しかし米アマゾンは、同社を5年働いて辞める退職者のために「最高50万円」の一時金を支給することを決めたという。

    永年勤続者に対する報奨金ではなく、退職を条件に支給するお金だ。まるで「5年で辞める人へのご褒美」を与えるような制度だが、これにはどういうねらいがあるのだろうか。

    怠け者を排除する「目先のカネ」

    このニュースは、海外の複数のメディアが報じたもの。一時金の額は、勤続1年なら1000ドル(約10万円)。勤続5年の5000ドル(約50万円)を上限に、1年1000ドルずつ増えていく。

    日本では一時金というと、前述のような報奨金か、業績が悪化しリストラを進める企業が退職者へ支払うものというイメージが強い。

    一方、アマゾンは業績不振とはまったく無縁だ。14年1-3月期の売上高は前年同期比23%増の197億4000万ドル。そこで得た利益を配送網の整備やクラウドサービスなどに投資するなど、順調に成長している。

    それでは、なぜこの制度を導入したのか。米MONEYNINGによると、その理由は会社から「Slackers(怠け者)」を排除するためだという。

    5000ドルという金額は、その人の一生を考えればさほど大きな額ではない。生活費の足しにするとしても数ヶ月の猶予ができるくらいで、またすぐに違う職を探さなければならない。

    それでも目先のお金を優先して辞めるような人は、もはやアマゾンには「必要のない人材」だったということになり、逆に辞めない人は会社に対する「献身性」があるとみなされる。

    リクルートでも「38歳定年制」

    一時金を受け取らずに残る社員は、会社で多くの責任を担い、プライドを持って働ける人という評価を受ける。こうした社員が多数を占めるようになると、社員の満足感や幸福度は上がると会社は見ているようだ。

    アマゾンのようなサービス業にとって、それはすなわち生産性の向上やサービスの質の向上、そして結果として利益につながるという。

    2013年のアニュアルレポートによると、アマゾンにはフルタイマー・パートタイマーの社員あわせて約11万7300人が同社で働いている。アマゾンの発表では、この制度を使って2~3%の人が退職するという。

    仮に2%の社員が退職し、それぞれに5000ドルを支払ったとすると、その支出は約12億円近くになる。これくらいのコストを払っても、アマゾンは「献身的な個人」を社内に残したいということなのだろう。

    こうした企業は日本では珍しいが、たとえばリクルートでは以前「38歳定年制」と呼ばれる制度があった。38歳以降は退職金の額が減るので、それまでに自分のキャリアを考えさせ、退職・独立を促すという制度だ。

    複数の社員の証言によると、2011年頃から若干の変更が加わり、現在では40代での退職が最も額が高くなっているようだ。これは、38歳以上で在籍している社員の独立をさらに促そうとしているものと考えられている。

    「最高益の今こそ、リストラ」という会社も

    リクルートも特に業績が悪いわけではない。13年3月期の営業収益は4期ぶりに1兆円を突破し、前期比30.1%増と堅実な成長を続けている。それでも組織の新陳代謝を高めることは、同社にとって大きな課題なのだろう。

    最近ではJTも、4期連続の過去最高益を達成した小泉光臣社長が、約1600人の希望退職者に対し平均で年収の3.5倍に相当する約3000万円を上乗せすると発表した。こちらは「社員に誠意を持って対応できる最高益の今こそ、リストラをやるべきだ」という考えに基づいているという。

    業績好調な企業でも、常に組織の最適化を図る企業が一時金を支給するケースが、今後日本でも出てくるかもしれない。社員にとっては、お金を受け取って退職するか、受け取らずに会社に残るかという選択を迫られることになる。

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