決算の予想と結果が違う「ハッタリ」企業 その企業体質を探る 2012年6月7日 企業徹底研究 ツイート 多くの企業は決算発表時に次期の売上高や経常利益などの業績予想を発表する。これはいわば株主をはじめとする社会に対して、企業が自分の成績をコミットメント(約束)するものだ。 週刊朝日6月1日号は、「上場225社の優良・ハッタリランキング」を特集記事として取り上げている。この記事は、業績予想と実際の結果を比較し、業界や企業に特有の「クセ」や大風呂敷を広げて、その後に下方修正する「ハッタリ」会社について解説している。 同誌によると「ある会社について業績の予想とその結果の長期にわたる傾向を見れば、クセや業界動向も浮かび上がり、投資や業界分析に役立つ」という。 そこで今回、この「上場企業225社優良・ハッタリランキング」に掲載された「ハッタリ」度の高い企業を取り上げ、その会社の問題点をキャリコネに寄せられた口コミを使って分析してみた。 ◇ 若手を育てない電子部品メーカー、体質が古い電線メーカー 「上場企業225社優良・ハッタリランキング」は、企業の業績が当初の予想よりも上回れば「勝ち」で、低ければ「負け」としている。そして、勝率の数字が少ないほど「ハッタリ度」が高い企業と位置付けている。対象としているのは銀行、証券、保険会社を除く上場企業225社だ。 このランキングで最低の勝率は10%。「最もハッタリ」企業となったのが日本水産だ。そんな同社だが、口コミを見ると社員は会社に満足しているようだ。例えば、27歳の男性社員は、人事評価について、こう書き込んでいる。 「ボーナス査定は毎回自己評価を申請し・課長、部長、役員などの役員が評価する。結果は面談により必ずフィードバックがある。なぜこの金額なったのかについては客観的な数値で評価できるようになっている。不満はない」 日本水産の勝率が低いのは、自然現象に影響を受けることが多い水産物という事業内容によるものだろう。同社は、世界的なSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)の構築を目指し近年M&A(合併・買収)を活発に行っている。 この買収企業の業績への効果がまだ低いことに加え、アルゼンチンの漁撈事業やインドネシアでのエビ養殖事業などの不調もあって、業績が当初予想より悪化することが多い。そのため「ハッタリ」度が高くなっているのだろう。 次の低い勝率は20%。ここには4社がランキングしている。まずは電子部品のミツミ電機だ。 29歳の男性社員は、社風について「難しい仕事へ積極的に挑んでいく人が少なく、かなり保守的」と述べている。 さらに、「納期短縮のため、経験豊富な中堅以上の社員に優先的に仕事を割り振るので、若手が育たないし、若手には雑務しか回ってこない」と社内の問題点について指摘している。 同社はPC向けを中心とする半導体事業の失速で、2011年度は赤字転落。人員整理や役員報酬の返上などを実施するが12年度、13年度も赤字が見込まれている。 一方で、任天堂のゲーム機向け半導体の開拓を進めている。しかし、、どの程度、その効果が見込めるのか不透明だ。業績の立て直しをしながらも、前出の社員が言うように、若手の登用など抜本的な社内体制の刷新も行わないと、「万年ハッタリ企業」の汚名から脱しきれないだろう。 次は電線御三家の1社で、かつては光ファイバーで市場をリードしたフジクラ。 30代後半の男性社員は「自他部門・上司部下ともにジョークやフレンドリーな空気を愛して仕事をする雰囲気がある」と述べている。 一方で、問題もあるようだ。 26歳の男性社員は「会社の仕組みが古い」と言う。この男性社員はさらにこう続けている。 「研究と開発の連携がなく、横の繋がりもない。そのため技術ナレッジの共有といったものが全くない」 フジクラは、円高による材料費の高騰に加え、タイの洪水やカルテル課徴金などのマイナス要因が加わり、2012年3月期は赤字が予想されている。 13年はベトナムでの生産拡大や、好調な自動車向けワイヤハーネスによって黒字転換を見込む。しかし、同社は事業の主体となる製品が短期間で変わることが多い。それは男性社員が指摘するように研究と開発の連携が取れていないことに原因がありそうだ。 ◇ 企業体質も勝率の低さに大きく影響か 3社目は、塩野義製薬だ。医科向け医薬品メーカーで、高脂血症薬が国内外で好調。ワーストランク入りは意外な感じだが、何か特別な理由があるのだろうか。 「製品ラインナップの幅が塩野義製薬の特徴だが、逆に言うとそれがネック」と、20代後半の男性社員は、同社の問題点と書き込んでいる。この男性社員の話が続く。 「製品教育にも限界があり、各製品の知識を深める機会に乏しいのが現状。また意志決定が本部ではなく現場判断で行われてきた文化があるため、戦略があまり徹底されません」 競争が激しくなる医薬品業界のなかで、この男性社員が指摘するような戦略の社内への徹底が欠けているとしたら論外だ。こうした企業風土が業績に悪影響を与え、「ハッタリ度」を高くしているのかもしれない。 また、塩野義は08年に米国企業を買収。海外展開に乗り出した。しかし、買収企業は赤字の状況。このことも業績と勝率を一因となっている。 最後は、日本ハムだ。食肉・ハム・ソーセージ業界のトップ企業で、決算内容も順調にもかかわらず「ハッタリ度」は高い。 20代前半の女性社員は「間違いなく、この会社は工場から潰れると思います」と会社の経営陣がビックリするような書き込みをしている。 その理由について、この女性社員はこう書き込んでいる。 「製造工場の待遇や扱いがかなり悪いです。今、オフィスで働いている人たちが一切工場経験がないのが原因です。無理な製造、ボロボロになるまで使われ続ける請負会社…自己防衛にしか走らない社員。自分たちの理想を押し付けるだけ押し付けて、下が苦しんでいるのに何もしないのに疑問を感じます」 日本ハムは、過去に牛肉偽造問題を引き起こしている。その食品偽造問題は子会社で起きた。この女子社員が言うように現場に無理や責任を押し付ける企業体質が残っているのだとしたら、株主をはじめとする外部に向かって公表する業績予想の「ハッタリ度」が高いのも納得できる。 ◇ 業種で「ハッタリ度」が高くなる企業も マルハニチロホールディングスは、勝率25%で「ハッタリ度」が高い3位にランキング入りしている。同社は水産物を中心とする食品会社。2007年にニチロと経営統合してできた。マルハやニチロなどの事業会社を傘下に置く。 32歳の男性社員は、会社の問題点を「統合会社なので、やむをえない部分もあるが、管理職間の連携が悪いのは残念」と、書き込んでいる。さらに「管理職クラスが過去の経験を捨てて未来を見ることができるかがカギ」と述べている。 同社の場合、「ハッタリ度」が高いのは、水産物という市況に左右されやすい製品を扱っており、その影響で業績が安定しないことがある。その一方で、社内の連携を高め、マルハとニチロの統合のメリットを生み出していくことも勝率を上げるためには必要だろう。 この10年間は企業を取り巻く環境が大きく変化した。今回の週刊朝日の記事によると、M&A(合併・買収)や海外進出など事業構造の前向きな変革を図ってきた企業は業績予想が結果を上回る「勝率」が高いという。例えば、自動車メーカーなどは軒並み勝率が80%を上回っている。 一方で、会社の成績表である決算予想の精度が劣る、「ハッタリ」が多いという企業については、口コミを見ると「保守的」「社内の部門間で差別や抗争がある」「社員の待遇が悪い」――などの一定の特徴があると結論づけられそうだ。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年5月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。
決算の予想と結果が違う「ハッタリ」企業 その企業体質を探る
多くの企業は決算発表時に次期の売上高や経常利益などの業績予想を発表する。これはいわば株主をはじめとする社会に対して、企業が自分の成績をコミットメント(約束)するものだ。
週刊朝日6月1日号は、「上場225社の優良・ハッタリランキング」を特集記事として取り上げている。この記事は、業績予想と実際の結果を比較し、業界や企業に特有の「クセ」や大風呂敷を広げて、その後に下方修正する「ハッタリ」会社について解説している。
同誌によると「ある会社について業績の予想とその結果の長期にわたる傾向を見れば、クセや業界動向も浮かび上がり、投資や業界分析に役立つ」という。
そこで今回、この「上場企業225社優良・ハッタリランキング」に掲載された「ハッタリ」度の高い企業を取り上げ、その会社の問題点をキャリコネに寄せられた口コミを使って分析してみた。
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若手を育てない電子部品メーカー、体質が古い電線メーカー
「上場企業225社優良・ハッタリランキング」は、企業の業績が当初の予想よりも上回れば「勝ち」で、低ければ「負け」としている。そして、勝率の数字が少ないほど「ハッタリ度」が高い企業と位置付けている。対象としているのは銀行、証券、保険会社を除く上場企業225社だ。
このランキングで最低の勝率は10%。「最もハッタリ」企業となったのが日本水産だ。そんな同社だが、口コミを見ると社員は会社に満足しているようだ。例えば、27歳の男性社員は、人事評価について、こう書き込んでいる。
「ボーナス査定は毎回自己評価を申請し・課長、部長、役員などの役員が評価する。結果は面談により必ずフィードバックがある。なぜこの金額なったのかについては客観的な数値で評価できるようになっている。不満はない」
日本水産の勝率が低いのは、自然現象に影響を受けることが多い水産物という事業内容によるものだろう。同社は、世界的なSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)の構築を目指し近年M&A(合併・買収)を活発に行っている。
この買収企業の業績への効果がまだ低いことに加え、アルゼンチンの漁撈事業やインドネシアでのエビ養殖事業などの不調もあって、業績が当初予想より悪化することが多い。そのため「ハッタリ」度が高くなっているのだろう。
次の低い勝率は20%。ここには4社がランキングしている。まずは電子部品のミツミ電機だ。
29歳の男性社員は、社風について「難しい仕事へ積極的に挑んでいく人が少なく、かなり保守的」と述べている。
さらに、「納期短縮のため、経験豊富な中堅以上の社員に優先的に仕事を割り振るので、若手が育たないし、若手には雑務しか回ってこない」と社内の問題点について指摘している。
同社はPC向けを中心とする半導体事業の失速で、2011年度は赤字転落。人員整理や役員報酬の返上などを実施するが12年度、13年度も赤字が見込まれている。
一方で、任天堂のゲーム機向け半導体の開拓を進めている。しかし、、どの程度、その効果が見込めるのか不透明だ。業績の立て直しをしながらも、前出の社員が言うように、若手の登用など抜本的な社内体制の刷新も行わないと、「万年ハッタリ企業」の汚名から脱しきれないだろう。
次は電線御三家の1社で、かつては光ファイバーで市場をリードしたフジクラ。
30代後半の男性社員は「自他部門・上司部下ともにジョークやフレンドリーな空気を愛して仕事をする雰囲気がある」と述べている。
一方で、問題もあるようだ。
26歳の男性社員は「会社の仕組みが古い」と言う。この男性社員はさらにこう続けている。
「研究と開発の連携がなく、横の繋がりもない。そのため技術ナレッジの共有といったものが全くない」
フジクラは、円高による材料費の高騰に加え、タイの洪水やカルテル課徴金などのマイナス要因が加わり、2012年3月期は赤字が予想されている。
13年はベトナムでの生産拡大や、好調な自動車向けワイヤハーネスによって黒字転換を見込む。しかし、同社は事業の主体となる製品が短期間で変わることが多い。それは男性社員が指摘するように研究と開発の連携が取れていないことに原因がありそうだ。
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企業体質も勝率の低さに大きく影響か
3社目は、塩野義製薬だ。医科向け医薬品メーカーで、高脂血症薬が国内外で好調。ワーストランク入りは意外な感じだが、何か特別な理由があるのだろうか。
「製品ラインナップの幅が塩野義製薬の特徴だが、逆に言うとそれがネック」と、20代後半の男性社員は、同社の問題点と書き込んでいる。この男性社員の話が続く。
「製品教育にも限界があり、各製品の知識を深める機会に乏しいのが現状。また意志決定が本部ではなく現場判断で行われてきた文化があるため、戦略があまり徹底されません」
競争が激しくなる医薬品業界のなかで、この男性社員が指摘するような戦略の社内への徹底が欠けているとしたら論外だ。こうした企業風土が業績に悪影響を与え、「ハッタリ度」を高くしているのかもしれない。
また、塩野義は08年に米国企業を買収。海外展開に乗り出した。しかし、買収企業は赤字の状況。このことも業績と勝率を一因となっている。
最後は、日本ハムだ。食肉・ハム・ソーセージ業界のトップ企業で、決算内容も順調にもかかわらず「ハッタリ度」は高い。
20代前半の女性社員は「間違いなく、この会社は工場から潰れると思います」と会社の経営陣がビックリするような書き込みをしている。
その理由について、この女性社員はこう書き込んでいる。
「製造工場の待遇や扱いがかなり悪いです。今、オフィスで働いている人たちが一切工場経験がないのが原因です。無理な製造、ボロボロになるまで使われ続ける請負会社…自己防衛にしか走らない社員。自分たちの理想を押し付けるだけ押し付けて、下が苦しんでいるのに何もしないのに疑問を感じます」
日本ハムは、過去に牛肉偽造問題を引き起こしている。その食品偽造問題は子会社で起きた。この女子社員が言うように現場に無理や責任を押し付ける企業体質が残っているのだとしたら、株主をはじめとする外部に向かって公表する業績予想の「ハッタリ度」が高いのも納得できる。
◇
業種で「ハッタリ度」が高くなる企業も
マルハニチロホールディングスは、勝率25%で「ハッタリ度」が高い3位にランキング入りしている。同社は水産物を中心とする食品会社。2007年にニチロと経営統合してできた。マルハやニチロなどの事業会社を傘下に置く。
32歳の男性社員は、会社の問題点を「統合会社なので、やむをえない部分もあるが、管理職間の連携が悪いのは残念」と、書き込んでいる。さらに「管理職クラスが過去の経験を捨てて未来を見ることができるかがカギ」と述べている。
同社の場合、「ハッタリ度」が高いのは、水産物という市況に左右されやすい製品を扱っており、その影響で業績が安定しないことがある。その一方で、社内の連携を高め、マルハとニチロの統合のメリットを生み出していくことも勝率を上げるためには必要だろう。
この10年間は企業を取り巻く環境が大きく変化した。今回の週刊朝日の記事によると、M&A(合併・買収)や海外進出など事業構造の前向きな変革を図ってきた企業は業績予想が結果を上回る「勝率」が高いという。例えば、自動車メーカーなどは軒並み勝率が80%を上回っている。
一方で、会社の成績表である決算予想の精度が劣る、「ハッタリ」が多いという企業については、口コミを見ると「保守的」「社内の部門間で差別や抗争がある」「社員の待遇が悪い」――などの一定の特徴があると結論づけられそうだ。
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年5月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。