調剤薬局 市場拡大でも先行き不安感に悩む「薬剤師王国」の実態 2012年6月15日 企業徹底研究 ツイート 大きな病院の周辺や市街地で「保険調剤」の看板を掲げて営業する「調剤薬局」。国の医薬分業政策で病院内の薬局に代わるものとして登場した。 日本薬剤師会によると、平成22年度は調剤処方箋の63・1%が病院外の薬局で処方された。調剤薬局の市場は形成されてまだ20年ほど。しかし、右肩上がりが続く成長業態だ。 病院の入り口近くに立地する調剤薬局、通称「門前薬局」は、外来診療の帰りに薬の処方箋を持った患者の多くが立ち寄ってくれる。だから見てくれなどは関係なし。駐車場に建てたプレハブでも、民家を改装した店でも商売になる。 調剤薬局は、「薬を売る」という点では同じでも、マツモトキヨシ、スギ薬局、サンドラッグのようなドラッグストアチェーンとは全く別の業態だ。 化粧品や洗剤は販売していないし、一般薬、大衆薬の品ぞろえは「ついで買い」に対応する最小限のものだけ。店内では白衣を着た薬剤師が薬を計量・調合している。その様子は、「薬屋」というよりも、昔に病院内にあった薬局のイメージだ。 調剤薬局の売上高を見ると、上位5社の中でイオングループに入って上場廃止になったクラフト以外は、すべて上場企業。歴史が浅いこともあり、トップ企業でも2・5%、1~3位を合わせても6・5%のシェアしかない。そして、大きな病院の近くに行けばわかるように調剤薬局は乱立気味だ。 企業数は数千ともいわれ、これから業界再編も予想される調剤薬局。どんな業界なのか、キャリコネに寄せられた口コミから分析してみよう。 ◇ 恵まれているはずの収入に不満が続出 「薬剤師王国」が調剤薬局の特徴だ。2009年に薬事法が改正され、薬剤師でなくても「登録販売者」の資格があれば店頭で第二類、第三類の一般用医薬品を販売できるようになった。 しかし、それはドラッグストアの話で、調剤薬局とは全く無縁。店舗は薬剤師の資格がなければ何もできない職場だと言っても過言ではない。 カギとなる薬剤師は、大学の薬学部の薬剤師養成課程が4年制から6年制に変更。昨年まで2年間は卒業生が空白だったこともあって今、深刻な薬剤師不足が起きている。 ただ、「超売り手市場」の薬学部の学生にとって人気の就職先は研究機関、製薬会社や大病院。調剤薬局は「ドラッグストアやスーパー、新規参入した得体の知れない会社に行くよりマシ」と思われている程度なのだ。 そのため、何とか採用できたとしても、20代のうちに去っていく者が少なくないようだ。クラフトの30代前半の男性社員が言う。 「定着率が一番の問題ではないかと思います。当時私の所属していたエリアでは30歳以上の人はほとんどおりませんでした」 厚生労働省は「1日の処方箋40枚あたり1人」という薬剤師配置のガイドラインを出しているので、会社としては辞められるとまずい。会社は貴重な薬剤師を横取りされないよう、特に若手には給料やボーナスをはずむ。 「大学を卒業した新卒の他の人と比べると、給料面は多いと思います。ただ、拘束時間が長いため、時給に換算すると多いかは分かりません」 と言うのは、日本調剤の20代後半の男性社員だ。 このように、調剤薬局の薬剤師は、他業種、他職種の若手社員と比べて年収は決して低くない。にもかかわらず、各社の口コミを見ると、収入への不満が次から次へと噴き出している。 「もう少し給与が高いほうが、社員の労働意欲も高まると思うし、有資格者としての自信や責任も沸くと思う。責任の大きさと給与が割に合わないかも?」(クラフトの30代前半の女性社員、年収400万円) 「報酬は、業界では最低だと思います」(アインファーマシーズの20代後半の女性社員、年収350万円) こうした口コミの裏にある本音は「薬剤師の採用は困難。貴重な人材の自分にやめられたら会社は困るはず。だからもっと待遇を良くして」ということなのだろう。 ◇ 忙しさと収入のアンバランスが不満の原因か 一方で仕事のやりがいはどうだろう。日本調剤の20代前半の男性社員は、こう書き込んでいる。 「ドクターやナースとは違う立場から患者さんの健康に貢献できることに面白みややりがいを感じている」 しかし、実際は朝から晩まで薬の調合を繰り返す毎日で、仕事は単調。その上、定着率が悪く慢性的な人手不足だから、1人にかかる負担は大きくなりがちだ。 「各店、ギリギリの人数でまわしてるので、ちょっと余裕がある日があると、すぐに他店舗へ応援に回されます」(クラフトの20代後半の女性社員) 「ありえないくらい店舗移動が激しい場合があり、私が聞いた人では、年に4回、転居を伴う移動をしていました」(日本調剤の20代後半の女性社員) こうして見ると、収入への不満には「忙しすぎる」「落ち着いて仕事ができない」ことも一因となっているのだろう。 ◇ 女性にとっては働きやすい職場 調剤薬局で働いている薬剤師は女性の比率が高い。結婚、出産後の職場復帰も、人手不足だから大いに歓迎される。 「薬局の仕事自体、地域密着な感があるので、復帰することはスタッフの間でも歓迎の雰囲気が強いと感じる」(クオールの20代後半の女性社員) 人手不足もあってか、女性の管理職登用も進んでいるようだ。 「やる気があれば女性でも管理職になれます。早ければ2年目で管理薬剤師、4年目でマネージャーになれます」(クラフトの30代前半の女性社員) 業界の中には社長が「女性は管理職にしない」と公言し、女性社員は名刺も作ってくれない会社もあるといわれていてる。しかし、資格と専門性を武器がなる薬剤師は長く勤められるため、おおむね女性にとっては働きやすい職場といえそうだ。 ◇ 商社、医薬品会社、ドラッグストアの攻勢…業界再編の可能性も 調剤薬局の若手の薬剤師たちは、今は就職も転職も売り手市場で収入も悪くない状況。しかし、将来を決して楽観視はしていない。 「今はまだいいにしても先輩の給与を見ても上がりが悪くなっていく将来の給与に不満がある」(アインファーマシーズの20代前半の男性社員/年収450万円) 「薬剤師の業界は、この2~3年がピークになると思う。その後は薬剤師数が増え、徐々にだが、減収していくだろうと思う」(日本調剤の30代前半の男性社員) 経営も決して安泰ではない。「成長はいつかは止まる」という先行きの不安感がある。一方で、総合商社や医薬品卸会社も参入して同業者間の競争が激化。買収、合併など業界再編の動きもありそうだからだ。 薬剤師の中には、一番のライバルはドラッグストアだと分析する人もいる。日本調剤の20代前半の女性社員は、こう書き込んでいる。 「資本力を生かし大量の薬剤師を採用することができ既存のドラッグストアに調剤をもうけることで主婦などからの処方箋をうけやすい。さらなる事業拡大で店舗数が大幅に増加するであろう」 実際、ドラッグストアチェーンの調剤事業進出の動きは活発化。「保険調剤」の看板を掲げる店舗が増えている。 全国に店舗展開し、日常生活に密着して大衆薬や健康食品で圧倒的な強みを持つドラッグストア。「病院のそばの一等地」を押さえているだけでは市場患者を奪われ、「調剤薬局・冬の時代」が来るかもしれない。そんなことも将来の不安要素の一つだろう。 ただ、調剤薬局も手をこまねいているわけではない。アインファーマシーズは全国の中小調剤薬局の買収を進める一方、ビルを建てて複数の診療科のクリニックを呼び寄せる「医療モール」を展開。調剤収入の安定化を図っている。 クオールはローソンと提携して「調剤薬局+コンビニ」の新業態店舗を拡大。総合メディカルは病院や診療所の開業支援、経営コンサルティングの事業に乗り出している。また、ドラッグストア事業を手がけている会社も少なくない。 「病気がなくなることはない」「国が薬価を決めるから価格競争がない」から安定していると言う人もいるが、10年、20年後には、調剤薬局の業界自体、もっと大きなドラッグビジネス、医療・福祉ビジネスの中に取り込まれ、その一部になっているのかもしれない。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年5月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。
調剤薬局 市場拡大でも先行き不安感に悩む「薬剤師王国」の実態
大きな病院の周辺や市街地で「保険調剤」の看板を掲げて営業する「調剤薬局」。国の医薬分業政策で病院内の薬局に代わるものとして登場した。
日本薬剤師会によると、平成22年度は調剤処方箋の63・1%が病院外の薬局で処方された。調剤薬局の市場は形成されてまだ20年ほど。しかし、右肩上がりが続く成長業態だ。
病院の入り口近くに立地する調剤薬局、通称「門前薬局」は、外来診療の帰りに薬の処方箋を持った患者の多くが立ち寄ってくれる。だから見てくれなどは関係なし。駐車場に建てたプレハブでも、民家を改装した店でも商売になる。
調剤薬局は、「薬を売る」という点では同じでも、マツモトキヨシ、スギ薬局、サンドラッグのようなドラッグストアチェーンとは全く別の業態だ。
化粧品や洗剤は販売していないし、一般薬、大衆薬の品ぞろえは「ついで買い」に対応する最小限のものだけ。店内では白衣を着た薬剤師が薬を計量・調合している。その様子は、「薬屋」というよりも、昔に病院内にあった薬局のイメージだ。
調剤薬局の売上高を見ると、上位5社の中でイオングループに入って上場廃止になったクラフト以外は、すべて上場企業。歴史が浅いこともあり、トップ企業でも2・5%、1~3位を合わせても6・5%のシェアしかない。そして、大きな病院の近くに行けばわかるように調剤薬局は乱立気味だ。
企業数は数千ともいわれ、これから業界再編も予想される調剤薬局。どんな業界なのか、キャリコネに寄せられた口コミから分析してみよう。
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恵まれているはずの収入に不満が続出
「薬剤師王国」が調剤薬局の特徴だ。2009年に薬事法が改正され、薬剤師でなくても「登録販売者」の資格があれば店頭で第二類、第三類の一般用医薬品を販売できるようになった。
しかし、それはドラッグストアの話で、調剤薬局とは全く無縁。店舗は薬剤師の資格がなければ何もできない職場だと言っても過言ではない。
カギとなる薬剤師は、大学の薬学部の薬剤師養成課程が4年制から6年制に変更。昨年まで2年間は卒業生が空白だったこともあって今、深刻な薬剤師不足が起きている。
ただ、「超売り手市場」の薬学部の学生にとって人気の就職先は研究機関、製薬会社や大病院。調剤薬局は「ドラッグストアやスーパー、新規参入した得体の知れない会社に行くよりマシ」と思われている程度なのだ。
そのため、何とか採用できたとしても、20代のうちに去っていく者が少なくないようだ。クラフトの30代前半の男性社員が言う。
「定着率が一番の問題ではないかと思います。当時私の所属していたエリアでは30歳以上の人はほとんどおりませんでした」
厚生労働省は「1日の処方箋40枚あたり1人」という薬剤師配置のガイドラインを出しているので、会社としては辞められるとまずい。会社は貴重な薬剤師を横取りされないよう、特に若手には給料やボーナスをはずむ。
「大学を卒業した新卒の他の人と比べると、給料面は多いと思います。ただ、拘束時間が長いため、時給に換算すると多いかは分かりません」
と言うのは、日本調剤の20代後半の男性社員だ。
このように、調剤薬局の薬剤師は、他業種、他職種の若手社員と比べて年収は決して低くない。にもかかわらず、各社の口コミを見ると、収入への不満が次から次へと噴き出している。
「もう少し給与が高いほうが、社員の労働意欲も高まると思うし、有資格者としての自信や責任も沸くと思う。責任の大きさと給与が割に合わないかも?」(クラフトの30代前半の女性社員、年収400万円)
「報酬は、業界では最低だと思います」(アインファーマシーズの20代後半の女性社員、年収350万円)
こうした口コミの裏にある本音は「薬剤師の採用は困難。貴重な人材の自分にやめられたら会社は困るはず。だからもっと待遇を良くして」ということなのだろう。
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忙しさと収入のアンバランスが不満の原因か
一方で仕事のやりがいはどうだろう。日本調剤の20代前半の男性社員は、こう書き込んでいる。
「ドクターやナースとは違う立場から患者さんの健康に貢献できることに面白みややりがいを感じている」
しかし、実際は朝から晩まで薬の調合を繰り返す毎日で、仕事は単調。その上、定着率が悪く慢性的な人手不足だから、1人にかかる負担は大きくなりがちだ。
「各店、ギリギリの人数でまわしてるので、ちょっと余裕がある日があると、すぐに他店舗へ応援に回されます」(クラフトの20代後半の女性社員)
「ありえないくらい店舗移動が激しい場合があり、私が聞いた人では、年に4回、転居を伴う移動をしていました」(日本調剤の20代後半の女性社員)
こうして見ると、収入への不満には「忙しすぎる」「落ち着いて仕事ができない」ことも一因となっているのだろう。
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女性にとっては働きやすい職場
調剤薬局で働いている薬剤師は女性の比率が高い。結婚、出産後の職場復帰も、人手不足だから大いに歓迎される。
「薬局の仕事自体、地域密着な感があるので、復帰することはスタッフの間でも歓迎の雰囲気が強いと感じる」(クオールの20代後半の女性社員)
人手不足もあってか、女性の管理職登用も進んでいるようだ。
「やる気があれば女性でも管理職になれます。早ければ2年目で管理薬剤師、4年目でマネージャーになれます」(クラフトの30代前半の女性社員)
業界の中には社長が「女性は管理職にしない」と公言し、女性社員は名刺も作ってくれない会社もあるといわれていてる。しかし、資格と専門性を武器がなる薬剤師は長く勤められるため、おおむね女性にとっては働きやすい職場といえそうだ。
◇
商社、医薬品会社、ドラッグストアの攻勢…業界再編の可能性も
調剤薬局の若手の薬剤師たちは、今は就職も転職も売り手市場で収入も悪くない状況。しかし、将来を決して楽観視はしていない。
「今はまだいいにしても先輩の給与を見ても上がりが悪くなっていく将来の給与に不満がある」(アインファーマシーズの20代前半の男性社員/年収450万円)
「薬剤師の業界は、この2~3年がピークになると思う。その後は薬剤師数が増え、徐々にだが、減収していくだろうと思う」(日本調剤の30代前半の男性社員)
経営も決して安泰ではない。「成長はいつかは止まる」という先行きの不安感がある。一方で、総合商社や医薬品卸会社も参入して同業者間の競争が激化。買収、合併など業界再編の動きもありそうだからだ。
薬剤師の中には、一番のライバルはドラッグストアだと分析する人もいる。日本調剤の20代前半の女性社員は、こう書き込んでいる。
「資本力を生かし大量の薬剤師を採用することができ既存のドラッグストアに調剤をもうけることで主婦などからの処方箋をうけやすい。さらなる事業拡大で店舗数が大幅に増加するであろう」
実際、ドラッグストアチェーンの調剤事業進出の動きは活発化。「保険調剤」の看板を掲げる店舗が増えている。
全国に店舗展開し、日常生活に密着して大衆薬や健康食品で圧倒的な強みを持つドラッグストア。「病院のそばの一等地」を押さえているだけでは市場患者を奪われ、「調剤薬局・冬の時代」が来るかもしれない。そんなことも将来の不安要素の一つだろう。
ただ、調剤薬局も手をこまねいているわけではない。アインファーマシーズは全国の中小調剤薬局の買収を進める一方、ビルを建てて複数の診療科のクリニックを呼び寄せる「医療モール」を展開。調剤収入の安定化を図っている。
クオールはローソンと提携して「調剤薬局+コンビニ」の新業態店舗を拡大。総合メディカルは病院や診療所の開業支援、経営コンサルティングの事業に乗り出している。また、ドラッグストア事業を手がけている会社も少なくない。
「病気がなくなることはない」「国が薬価を決めるから価格競争がない」から安定していると言う人もいるが、10年、20年後には、調剤薬局の業界自体、もっと大きなドラッグビジネス、医療・福祉ビジネスの中に取り込まれ、その一部になっているのかもしれない。
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