国内市場は小さく、マネジメントも未熟 アニメ業界の「過酷すぎる現場」 2014年4月21日 今日の口コミ&年収 ツイート アニメ制作会社「A-1 Pictures」で06年から09年まで働き、2010年に自殺した男性(28)について、新宿労働基準監督署が過労によるうつ病が原因とし、2014年4月11日付で労災認定が下った。 男性が在職中に残した記録では、多いときで300時間を超える残業があった。通院先のカルテには「月600時間労働」などと記載されていたという報道もある。残業代がどこまで支払われていたかは分からないが、会社にほとんど泊まりこみの状態だったのだろう。 精神的・身体的な負担の大きい「制作進行」 この男性が従事していたのは「制作進行」という役割。演出や監督への登竜門とも言われるが、アニメ界では「最も過酷な仕事」のひとつといわれている。 アニメが納期どおりに完成するように、原画や動画、仕上げなど各プロセスに素材を運んだり、演出とアニメーターとの間で調整を行ったりする。 A-1 Picturesはいまも制作進行の求人募集を行っているが、採用ページには「制作スケジュールが滞らないように、各部署での進捗状況を確認・管理して、作品を完成まで導きます」とある。 キャリコネには、制作会社マッドハウスで制作進行に携わった人の口コミがある。この20代後半の男性は、初任給が17万円で、1年間は契約社員扱い。肉体的、精神的にも厳しい仕事だったそうだ。 「(クリエイターは)基本的に自分本位の方が多いので、自分を殺して相手に合わせられるかどうか(が仕事のポイントになる)。理不尽なことを聞き流すことができないと、ストレスで倒れてしまう可能性が高くなってしまう」 「サマーウォーズ」や「DEATH NOTE」を制作した業界大手でさえ、この状況である。労災認定の報を受けて、2ちゃんねるには「アニメ会社の元制作進行だけど、質問ある?」というスレッドが立ち、関係者らしき人たちが書き込みをしている。 「この人の置かれてた状況はアニメ制作では珍しくない。息抜きもできなければ、愚痴る暇もなく、見渡せば山積みの問題と迫るタイムリミット!」 「編集や仕上げ、撮影などからの催促とか文句を一身に受けたりすることも精神的にきます」 「事業の収益性」と「プロジェクト管理」に問題 アニメといえば、いまや日本を代表するコンテンツだ。国際的に高い評価を得て、世界中のファンやクリエイターたちにも影響を与えるアニメの制作現場が、なぜこのような過酷な環境になっているのか。 ソーシャルゲーム制作会社gumi(グミ)の国光宏尚社長は、その原因について、フェイスブックでこう指摘している。 「コンテンツが日本でしか売れないからそもそもの収益性が悪い。プロジェクト管理が出来てないので非効率」 一部の作品を除き、多くのアニメ作品は国内市場にとどまるため、市場規模が小さい。なおかつ、現場のマネジメントがうまく回っておらず、業務の効率が低い。アニメ業界には、この2つの問題が存在するようだ。 アニメビジネスのお金が、制作側に十分回っていないという問題もあるようだ。日本動画協会の調査によると、ユーザーが支払った金額を推定した広義の「アニメ産業市場」は1兆3721億円と高止まりが続いている。 一方で、アニメ制作・製作会社の売上を推計した「アニメ業界市場」は、2012年で1725億円。2005年の2244億円から23%も減少している。制作会社が得ているのは、市場全体の収入の1割程度ということになる。 この市場規模の差について、同協会は「キャラクターなどのアニメビジネスが非常に大きなレバレッジ効果をもっているから」と分析している。しかしネットには、広告代理店やテレビ局が「中抜きしている」という書き込みも見られる。 現場のアニメーターに強く言えない理由 制作進行のツラさは、アニメーターとの板ばさみによるところもある。日本アニメーター・演出協会の2009年調査では、20代アニメーターは平均年収が110万円だった。偏った調査の可能性もあるが、待遇の悪さは各所で指摘されている。 アニメーターは出来高制の単価が安いため、忙し過ぎるくらいに働かないと生活が成り立たない、という側面もあるようだ。上流工程のプレッシャーを受けながらも、制作進行はそんなアニメーターには強い言葉をかけにくい。 業界内には、改善の取り組みも見られる。宮崎駿監督のスタジオ・ジブリでは、「スタッフの社員化及び固定給制度」の導入に取り組み、アニメーターの待遇改善を進めた。 『もののけ姫』がメガヒットすると、関係者100人に100万円ずつ分配し、私設保育園も設けられた。しかし、こうしたアニメ制作会社は稀で、多くはいまだに厳しい待遇のままだという。 作品に魅せられ、それに関わりたいと憧れた才能ある人たちが、心身をすり減らしてものづくりに励む――。エンタメ業界ではよくある構造だが、業界を健全化するには、新しいマネジメントを導入してくれる良心的で優れた手法を持つ経営者や管理者の誕生を期待するしかないのだろうか。 あわせてよみたい:海外赴任がイヤなのは「アキバがないから」
国内市場は小さく、マネジメントも未熟 アニメ業界の「過酷すぎる現場」
アニメ制作会社「A-1 Pictures」で06年から09年まで働き、2010年に自殺した男性(28)について、新宿労働基準監督署が過労によるうつ病が原因とし、2014年4月11日付で労災認定が下った。
男性が在職中に残した記録では、多いときで300時間を超える残業があった。通院先のカルテには「月600時間労働」などと記載されていたという報道もある。残業代がどこまで支払われていたかは分からないが、会社にほとんど泊まりこみの状態だったのだろう。
精神的・身体的な負担の大きい「制作進行」
この男性が従事していたのは「制作進行」という役割。演出や監督への登竜門とも言われるが、アニメ界では「最も過酷な仕事」のひとつといわれている。
アニメが納期どおりに完成するように、原画や動画、仕上げなど各プロセスに素材を運んだり、演出とアニメーターとの間で調整を行ったりする。
A-1 Picturesはいまも制作進行の求人募集を行っているが、採用ページには「制作スケジュールが滞らないように、各部署での進捗状況を確認・管理して、作品を完成まで導きます」とある。
キャリコネには、制作会社マッドハウスで制作進行に携わった人の口コミがある。この20代後半の男性は、初任給が17万円で、1年間は契約社員扱い。肉体的、精神的にも厳しい仕事だったそうだ。
「サマーウォーズ」や「DEATH NOTE」を制作した業界大手でさえ、この状況である。労災認定の報を受けて、2ちゃんねるには「アニメ会社の元制作進行だけど、質問ある?」というスレッドが立ち、関係者らしき人たちが書き込みをしている。
「事業の収益性」と「プロジェクト管理」に問題
アニメといえば、いまや日本を代表するコンテンツだ。国際的に高い評価を得て、世界中のファンやクリエイターたちにも影響を与えるアニメの制作現場が、なぜこのような過酷な環境になっているのか。
ソーシャルゲーム制作会社gumi(グミ)の国光宏尚社長は、その原因について、フェイスブックでこう指摘している。
一部の作品を除き、多くのアニメ作品は国内市場にとどまるため、市場規模が小さい。なおかつ、現場のマネジメントがうまく回っておらず、業務の効率が低い。アニメ業界には、この2つの問題が存在するようだ。
アニメビジネスのお金が、制作側に十分回っていないという問題もあるようだ。日本動画協会の調査によると、ユーザーが支払った金額を推定した広義の「アニメ産業市場」は1兆3721億円と高止まりが続いている。
一方で、アニメ制作・製作会社の売上を推計した「アニメ業界市場」は、2012年で1725億円。2005年の2244億円から23%も減少している。制作会社が得ているのは、市場全体の収入の1割程度ということになる。
この市場規模の差について、同協会は「キャラクターなどのアニメビジネスが非常に大きなレバレッジ効果をもっているから」と分析している。しかしネットには、広告代理店やテレビ局が「中抜きしている」という書き込みも見られる。
現場のアニメーターに強く言えない理由
制作進行のツラさは、アニメーターとの板ばさみによるところもある。日本アニメーター・演出協会の2009年調査では、20代アニメーターは平均年収が110万円だった。偏った調査の可能性もあるが、待遇の悪さは各所で指摘されている。
アニメーターは出来高制の単価が安いため、忙し過ぎるくらいに働かないと生活が成り立たない、という側面もあるようだ。上流工程のプレッシャーを受けながらも、制作進行はそんなアニメーターには強い言葉をかけにくい。
業界内には、改善の取り組みも見られる。宮崎駿監督のスタジオ・ジブリでは、「スタッフの社員化及び固定給制度」の導入に取り組み、アニメーターの待遇改善を進めた。
『もののけ姫』がメガヒットすると、関係者100人に100万円ずつ分配し、私設保育園も設けられた。しかし、こうしたアニメ制作会社は稀で、多くはいまだに厳しい待遇のままだという。
作品に魅せられ、それに関わりたいと憧れた才能ある人たちが、心身をすり減らしてものづくりに励む――。エンタメ業界ではよくある構造だが、業界を健全化するには、新しいマネジメントを導入してくれる良心的で優れた手法を持つ経営者や管理者の誕生を期待するしかないのだろうか。
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