• ブラック企業の採用担当者の反論が興味深い 「目標に向かって頑張っている人もいる」

    株式会社ディスコが、就活生と企業双方を対象とした「採用活動に関する企業調査」を実施し、結果を公表している。この中の、全国1006社の採用担当者のコメントが興味深い。

    コメントは一様に、「ブラック企業」に入社しないよう警戒感を強める就活生に批判的だ。中には、メディアの報道による悪影響を指摘する担当者もいた。(人事コンサルタント:深大寺翔)

    「どんないい会社に入っても不満を言う」と決めつけ

    アンケート結果には、回答した担当者の勤務先は書かれていない。しかしコメントの中身を見ると、自社をブラック呼ばわりされていそうな担当者の答えには、どことなくトゲがある。ある中堅商社の担当者は、

    「ネットや友人からの情報で『あそこはブラック企業だ』と決めつける学生は、恐らくどんないい会社に入っても、不平不満を言う学生である」(商社/従業員300~999人)

    と決めつけている。もしかすると自社に対するブラック企業疑惑で、採用活動にも支障が生じているのかもしれない。

    とはいえ、企業によって労働環境は大きく異なるのは、疑いのない事実である。ブラック企業への就職を回避して、満足できるホワイト企業への就職を果たした人も存在するのだから、この言い分には無理があるというものだろう。

    「マスメディアがブラック企業について過剰に煽り立てているため、就活生は疑心暗鬼になって企業を見つめていると思います」(建設・住宅・不動産/1,000~4,999人)

    と、メディア批判を展開しはじめる担当者もいる。しかしブラック企業を告発し批判しているのは、なにもマスコミや就活生だけではない。政府もその存在を認め、調査によってかなり酷い事例も明らかになっている。

    逆に、まだまだ告発されないケースも多く残されているはずだ。現在働いている若手会社員からも、こんな理不尽はおかしいというインサイダー情報が口コミサイトに多数あがっていることを、採用担当者は謙虚に受け止めるべきだ。

    「残業ゼロ」「有休100%」をなぜ当然と考えないのか

    採用担当者の中には、いわゆる「洗脳」が解けていないようなコメントもあった。

    「基本は法令順守・コンプライアンスだと思う。労働条件の違いは、各種法令の範囲内であれば、当然存在してしかるべきであり、過酷な労働(残業時間の多さや有給休暇の取りづらさ等)や人間関係の悪さだけにスポットをあてるのは疑問に感じる」(素材・化学/300~999人)

    この担当者は、就活生を含め若手会社員たちが「残業」を前提とした労働をおかしいと考えているということに気づいていないようだ。また、「有給休暇の取りづらさ」を許容しているようだが、なぜ100%取得が当たり前と考えないのか。

    おそらく「そんなことは無理」と考えているのだろうが、本当は心のどこかで、本気でやろうと思えばできることを感じているに違いない。

    これまで当たり前とされてきた慣習に対して、学生たちは「そんな条件では働きたくない」と言っているのであり、これを事実と認めて労働環境を改善できる採用担当者だけが、優秀な人材を獲得できる時代といっていいだろう。

    当然、このような発想の転換をすでに済ませた担当者もいる。

    「学生のブラック企業に対するイメージを払拭するためにも、入社後の仕事内容や、勤務状況など、明確にするべきだと思う」(エンターテインメント/300~999人)

    自社の労働条件の改善を済ませ、どこにもやましいことのない担当者のコメントには、就活生を責めるトーンは感じられない。どこか余裕すら感じられる。

    「(学生は)処遇面や評価制度については、入社の意思を確定するまでに調べておく、もしくは人事部門に確認すべきです」(商社/5,000人以上)
    「インターネットの口コミサイトなどでしっかりと情報収集し、会社の良し悪しを確認してから就職先を決めて欲しいと思います」(サービス業/300~999人)

    将来性のない業界に入りたくないのは当然

    ブラックと呼ばれる企業が多く、それでも労働環境の改善が進まない業界からは、ほとんど開き直りのようなコメントもあがっている。

    「ブラック企業と言われる企業の中でも、活躍し、やりがいを感じ、目標に向かって頑張っている方は多くいる」(スーパー・コンビニエンス/~299人)
    「ブラックは嫌だという前に自分は何がしたいか、どんな道で人生を歩んでいきたいかを考えるべき!」(水産・食品/300~999人)

    ブチ切れ気味の担当者にアドバイスしたいのは、学生たちはまったくストレスのない職場で働きたいと思っているわけではない、ということだ。そこで働くことで「将来的に自立して生きていける力をつけたい」と真面目に思っているのだ。

    収益性が低迷し、将来の成長性に乏しい業界に入るということは、自分の首を絞めることになる。採用担当者だって、もしも人生をやり直しできるとしたら、そんな会社に入りたいとは思わないはずだ。

    その会社で働くことが、若い人たちにとって本当に将来性のあることなのか。その問いに自信を持ってうなずけないなら、採用担当者は若者を批判する資格はないだろう。(人事コンサルタント:深大寺翔)

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