• ダイソン創業者のエンジニア魂 「製品より会社が大事と思った瞬間に問題が起きる」

    「吸引力が変わらないただ一つの掃除機」でおなじみのダイソン。紙パックを使わないサイクロン式掃除機を世界で初めて販売し、日本でも大ヒットしている。

    しかし開発への道は険しく、5000回以上の試作を経て、会社を立ち上げるまでに15年の歳月を費やしたという。2014年5月15日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、ダイソン創業者、ジェームズ・ダイソン氏の不屈の物づくり精神に迫った。

    専業の「デザイナー」を置かない理由

    1978年のある日、「紙パック式掃除機の吸引力が弱くなる」ことに腹を立てたダイソン氏は、吸引力が落ちない掃除機をつくれないかと、自宅の倉庫でひとり研究を始めた。

    それまでいくつかの発明品でうまくいっていたものの、この開発に乗り出してからは無収入。3人の子供を養うため、妻は絵画教室を開いた。試作を重ね、やっと完成したのは5年後、5124個目のことだった。

    販売してくれる会社を求めて、世界中のメーカーを訪ねるが断られ続けた。契約をめぐって訴訟を起こされたりもした末に、「新しい技術に感激して」初めてライセンス契約したのは日本の会社だったという。

    「細部に気を配り、新しい技術に熱意を燃やす日本人にとても励まされました」

    今や日本の掃除機の6割がサイクロン式になっており、ダイソンは掃除機市場に大きな変革をもたらした。さらに羽のない斬新なデザインの扇風機・エアマルチプライアーなど革新的な製品を次々と開発しているが、驚くことに社内にデザイナーは一人もいないという。

    その仕事を担っているのが、優れた価値を生み出せる技術者「デザインエンジニア」と呼ばれる2000人ものプロたちだ。ダイソン氏はこの意味をこう語る。

    「私はデザインとエンジニアリングは、分けるべきではないと思ってきました。デザインを見かけのことだけだと思っている人もいますが、使い勝手や素材や耐久性、すべてがデザインと関係しています」

    唯一のアドバイスは「他人のアドバイスを聞くな」

    番組ナビケーダーの村上龍氏は「企業が大きくなると、製品を愛している人ではなくマネジメントがうまい人が経営をする場合が多くなる。そのようにプロダクツとマネジメントが分かれていくことをどう考えるか」と質問すると、ダイソン氏はこう答えた。

    「それは完全に間違いだと思います。会社経営でなく、製品が大事なんです。良い商品を作れば、会社は発展できる。製品よりも会社が大事だと思った瞬間に、問題が起きます。みんなが社内しか見なくなり、経営ばかり気にし始めるからです」

    ダイソン氏はエンジニア育成にも力を入れており、私財を投じて「ジェームズ・ダイソンアワード」を設立。世界中の若手エンジニアから様々な提案を集め、事業化支援を行っている。

    今年のアワードで準優勝したのは、3Dプリンターを駆使して低コストの義手を作った日本人の若者だった。従来200万~400万かかっていたものが、4万円程度でできるという。

    村上氏から「戦いを挑む若きエンジニアたち」にアドバイスを求められると、ダイソン氏は笑って「私が絶対にしないことの一つが、アドバイスです」と言いながら語り始めた。

    「唯一できるアドバイスは、『アドバイスは聞くな』ということです。人と違う事をして世界を変えたいとします。これまでと全く違う事をするのですから、アドバイスをできる人はいないはずです。経験なんて必要ありません。経験は、過去にうまく行ったことであり、将来うまくいくかどうかとは関係ないんです」

    肩書きは今も「チーフエンジニア」

    最後に語った「やりたいことをやって、絶対にあきらめてはいけません」という言葉は、ダイソン氏の生き方そのものを表していた。

    15年間苦闘し続けたエネルギーの一番の核は、自身が使っていた従来の掃除機に対する「怒り」と「苛立ち」だった。紙パック式の問題を解決して、それを商品化すればきっとみんな買いたがる。誰もそう思っていなくても「私は確信していた」のだそうだ。

    世界67カ国で販売し、売上1800億円を超える大企業の創業者でありながら、ダイソン氏の肩書は「ダイソン社チーフエンジニア」だった。経営よりも良い製品を作り続けるエンジニアであるという、立ち位置を見失わない姿勢が素晴らしく感動した。(ライター:okei)

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