携帯3社決算 利益率でソフトバンク一人勝ち 企業体質で明暗か? 2012年7月11日 企業徹底研究 ツイート 携帯電話3社の12年3月期の連結決算が出そろった。各社ともスマホ(スマートフォン)の販売が好調で、NTTドコモとKDDIは増収増益。アップルのスマホ「iPhone(アイフォーン)」が人気のソフトバンクは増収増益に加え、当期純益も増益になった。 NTTドコモは売上高にあたる営業収益が前年度比0・4%増、営業利益がデータ通信料の増収で前年度比3.5%増となり、8期ぶりの増収増益。しかし、繰延税金資産の取り崩しが響き、純益は前年度比で5・4%の減少した。 KDDIは営業収益が前年度比4%増、営業利益が前年度比1・2%増。ただ、同社も繰延税金資産の取り崩しが響き、純益は前年度比で6・5%減少した。 ソフトバンクは営業収益が前年度比で6・6%増、営業利益は7・3%増と、ドコモ、KDDIを上回る増収・増益率を記録した。 iPhoneの販売が好調で純増契約数は354万件となり、ドコモの212万件、KDDIの211万件を大きく引き離した。このためデータ通信料収入が前年度比で9%も増加、営業利益を押し上げ、米国ヤフー株売却益を計上したことで、当期純益は同社のみが大幅増益となった。主要指標ではソフトバンクが一人勝ちの形だ。 今回の決算は利益率ではソフトバンクが制した形となった。その背景をキャリコネに寄せられた3社の口コミで分析すると、興味深いことがわかった。 ◇ 危機感のないNTTドコモとKDDI NTTドコモの30代前半の女性派遣社員は「社風は完全に学校のノリ」と言う。さらに、こう振り返っている。 「社員は休みが多く、雰囲気はかなりぬるい感じだった。NTTの名残なのか危機感はまったくなし。高学歴の割には仕事ができない人が多かった」 携帯電話市場で長年トップの座を占めてきた思い上がりからか、危機感のなさを訴える声が同社の口コミには多い。 その驕りが次のような経営陣の無責任ぶりを招いているようだ。 「仕事の9割以上が社内調整。特に部署間調整の煩わしさは異常なほど。現場同士で詰め、部課長で詰め、執行役員同士で握ってもらい、常務クラスへの根回しを終えて、1つの案件を経営幹部の会議に上げる。そこで承認を得たものを、別途経営会議に上げなくてはならない」 と、30代後半の男性社員は、延々と続く根回し作業のような社内調整の多さに辟易(へきえき)している。 さらに、「それに経営幹部が決断しない」と、決断を後回しにする経営陣の恐ろしいまでの無責任さを暴露している。 このような無責任体質はKDDIも同じようだ。 30代前半の男性社員は「事なかれ主義が蔓延(まんえん)している」と嘆いている。 また、社内ルールには意味不明のものが多いので、「それを先輩に質問したら『そう言うことになっているから』と煙たがられるだけだった。何かを成し遂げるのは難しい」と話している。 また、20代前半の女性派遣社員は「コンシューマ事業が主体であるにもかかわらず、コンシューマの企業認知度が低いことが分かっていない。(略)不況の中、必死に働いている近縁業種他社の状況もまったく分かっていない」と嘆き、危機感を持たない同社の体質に呆れ返っている。 ◇ 騎虎の勢で突き進むソフトバンク ソフトバンクの体質は他2社のだらけ切った体質と好対照のようだ。社員の口コミには「スピード感」という言葉が溢れている。例えば、30代後半の男性社員はこう言う。 「スピード感、変化を続ける、それが当たり前という雰囲気です。朝令暮改は当たり前、それが日常であることから、変化に対応できない人にとっては苦痛な職場です」 口コミでは孫正義社長の気まぐれとしか思えない指示を批判する声も多いが、逆にそれを「ダイナミックでやりがいがある」と答える人も多いの。それが同社の面白さと言える。 スピードを求める会社だから仕事もきつそうだが、それも余り苦痛ではないらしい。 「営業成績=評価。(略)実績に応じたインセンティブが細かく設定されているので分かりやすい。毎日残業だが、残業代もしっかり出る」 と、30代前半の女性契約社員は書き込んでいる。この女性社員は頑張りが収入に反映する評価の透明さに、仕事のきつさも納得している様子だ。 ◇ 前進姿勢を強調する孫社長 今回の決算の背景には、硬直した組織のドコモ、KDDIと、スピードを重視するソフトバンクの企業体質が一因にあるようだ。 決算発表会時の説明でもソフトバンクの力の入れようは半端ではなかった。ソフトバンクが決算説明会で使ったプレゼン資料は、119ページに上る。ドコモが58ページ、KDDIは55ページと比べれば、その差は歴然だ。そして、約2時間立ち続けで、汗で光らせながらプレゼンしていた孫社長の顔も気迫に満ちていた。 説明会に出席した株主の一人は、まるで「ソフトバンクはこんなに凄いんだぞ、発表会」みたいなものだったと言う。とにかく「営業利益が7期連続最高益」、「国内営業利益ランキングが3年連続3位」、「純増契約数が圧倒的ナンバー1」など「凄いでしょう」のオンパレードに会場はあぜんとするばかりだったと言う。 さらに、「さらなる成長へ」と題するプレゼンでは、「スマホ時代が本格的に到来している。ここに経営資源を逸早く投入し、一気にスマホ時代の流れを作ったのがソフトバンク」だと胸を張り、これで「持続可能な成長モデルが確立できた」と、携帯電話市場の制覇に自信を示した。 前出の株主は「時には信憑性の低いデータを示すなど、我田引水が目立ったプレゼンだったが、孫社長の熱意は我々に伝わった。と言うより毒気に当てられた説明会だったかも」と振り返っている。 朝令暮改の連発、説明の論理矛盾など、経営者としての粗雑さから「嘘つき孫」と揶揄(やゆ)される孫社長だが、それでもひたすら前へ突き進もうとする姿勢に共感する関係者も少なくない。NTTドコモとKDDIの経営者は自社の増収増益を自慢している場合ではない。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年6月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。
携帯3社決算 利益率でソフトバンク一人勝ち 企業体質で明暗か?
携帯電話3社の12年3月期の連結決算が出そろった。各社ともスマホ(スマートフォン)の販売が好調で、NTTドコモとKDDIは増収増益。アップルのスマホ「iPhone(アイフォーン)」が人気のソフトバンクは増収増益に加え、当期純益も増益になった。
NTTドコモは売上高にあたる営業収益が前年度比0・4%増、営業利益がデータ通信料の増収で前年度比3.5%増となり、8期ぶりの増収増益。しかし、繰延税金資産の取り崩しが響き、純益は前年度比で5・4%の減少した。
KDDIは営業収益が前年度比4%増、営業利益が前年度比1・2%増。ただ、同社も繰延税金資産の取り崩しが響き、純益は前年度比で6・5%減少した。
ソフトバンクは営業収益が前年度比で6・6%増、営業利益は7・3%増と、ドコモ、KDDIを上回る増収・増益率を記録した。
iPhoneの販売が好調で純増契約数は354万件となり、ドコモの212万件、KDDIの211万件を大きく引き離した。このためデータ通信料収入が前年度比で9%も増加、営業利益を押し上げ、米国ヤフー株売却益を計上したことで、当期純益は同社のみが大幅増益となった。主要指標ではソフトバンクが一人勝ちの形だ。
今回の決算は利益率ではソフトバンクが制した形となった。その背景をキャリコネに寄せられた3社の口コミで分析すると、興味深いことがわかった。
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危機感のないNTTドコモとKDDI
NTTドコモの30代前半の女性派遣社員は「社風は完全に学校のノリ」と言う。さらに、こう振り返っている。
「社員は休みが多く、雰囲気はかなりぬるい感じだった。NTTの名残なのか危機感はまったくなし。高学歴の割には仕事ができない人が多かった」
携帯電話市場で長年トップの座を占めてきた思い上がりからか、危機感のなさを訴える声が同社の口コミには多い。
その驕りが次のような経営陣の無責任ぶりを招いているようだ。
「仕事の9割以上が社内調整。特に部署間調整の煩わしさは異常なほど。現場同士で詰め、部課長で詰め、執行役員同士で握ってもらい、常務クラスへの根回しを終えて、1つの案件を経営幹部の会議に上げる。そこで承認を得たものを、別途経営会議に上げなくてはならない」
と、30代後半の男性社員は、延々と続く根回し作業のような社内調整の多さに辟易(へきえき)している。
さらに、「それに経営幹部が決断しない」と、決断を後回しにする経営陣の恐ろしいまでの無責任さを暴露している。
このような無責任体質はKDDIも同じようだ。
30代前半の男性社員は「事なかれ主義が蔓延(まんえん)している」と嘆いている。
また、社内ルールには意味不明のものが多いので、「それを先輩に質問したら『そう言うことになっているから』と煙たがられるだけだった。何かを成し遂げるのは難しい」と話している。
また、20代前半の女性派遣社員は「コンシューマ事業が主体であるにもかかわらず、コンシューマの企業認知度が低いことが分かっていない。(略)不況の中、必死に働いている近縁業種他社の状況もまったく分かっていない」と嘆き、危機感を持たない同社の体質に呆れ返っている。
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騎虎の勢で突き進むソフトバンク
ソフトバンクの体質は他2社のだらけ切った体質と好対照のようだ。社員の口コミには「スピード感」という言葉が溢れている。例えば、30代後半の男性社員はこう言う。
「スピード感、変化を続ける、それが当たり前という雰囲気です。朝令暮改は当たり前、それが日常であることから、変化に対応できない人にとっては苦痛な職場です」
口コミでは孫正義社長の気まぐれとしか思えない指示を批判する声も多いが、逆にそれを「ダイナミックでやりがいがある」と答える人も多いの。それが同社の面白さと言える。
スピードを求める会社だから仕事もきつそうだが、それも余り苦痛ではないらしい。
「営業成績=評価。(略)実績に応じたインセンティブが細かく設定されているので分かりやすい。毎日残業だが、残業代もしっかり出る」
と、30代前半の女性契約社員は書き込んでいる。この女性社員は頑張りが収入に反映する評価の透明さに、仕事のきつさも納得している様子だ。
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前進姿勢を強調する孫社長
今回の決算の背景には、硬直した組織のドコモ、KDDIと、スピードを重視するソフトバンクの企業体質が一因にあるようだ。
決算発表会時の説明でもソフトバンクの力の入れようは半端ではなかった。ソフトバンクが決算説明会で使ったプレゼン資料は、119ページに上る。ドコモが58ページ、KDDIは55ページと比べれば、その差は歴然だ。そして、約2時間立ち続けで、汗で光らせながらプレゼンしていた孫社長の顔も気迫に満ちていた。
説明会に出席した株主の一人は、まるで「ソフトバンクはこんなに凄いんだぞ、発表会」みたいなものだったと言う。とにかく「営業利益が7期連続最高益」、「国内営業利益ランキングが3年連続3位」、「純増契約数が圧倒的ナンバー1」など「凄いでしょう」のオンパレードに会場はあぜんとするばかりだったと言う。
さらに、「さらなる成長へ」と題するプレゼンでは、「スマホ時代が本格的に到来している。ここに経営資源を逸早く投入し、一気にスマホ時代の流れを作ったのがソフトバンク」だと胸を張り、これで「持続可能な成長モデルが確立できた」と、携帯電話市場の制覇に自信を示した。
前出の株主は「時には信憑性の低いデータを示すなど、我田引水が目立ったプレゼンだったが、孫社長の熱意は我々に伝わった。と言うより毒気に当てられた説明会だったかも」と振り返っている。
朝令暮改の連発、説明の論理矛盾など、経営者としての粗雑さから「嘘つき孫」と揶揄(やゆ)される孫社長だが、それでもひたすら前へ突き進もうとする姿勢に共感する関係者も少なくない。NTTドコモとKDDIの経営者は自社の増収増益を自慢している場合ではない。
*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年6月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。