マンション管理業界 10年後に来る市場の大変化、生き残るのはどこだ? 2012年8月23日 企業徹底研究 ツイート 都市部に住む日本人の住まいとしてすっかり定着した「マンション」。英語圏では「コンドミニアム」と呼ばれるビル状の集合住宅をあらわす和製英語だ。 その分譲マンションは2011年末現在、全国で約579万6000戸が建ち、約1400万人が暮らしている(国土交通省「全国のマンションストック戸数」)。 国土交通省の調査では、全国の新築マンション供給戸数は2007年、過去最多の22万7000戸を記録した。その後は16万7000戸、17万戸、9万2000戸と減少。2011年は8万2000戸と、4年前のピーク時より約3分の1に落ち込んだ。マンションの企画・開発・分譲をするマンションデベロッパーの市場は、リーマンショック後の不況で急速に縮小してしまった。 ところが、完成し分譲した後のマンションを管理する「マンション管理会社」の業界は、建設・不動産関連にしては珍しく、リーマンショックの影響を受けても伸び率が低下しただけで、市場は右肩上がりの成長がずっと続いたままだ。 市場は、2005年からの7年間で約4割も増加している。日本でマンションが本格的に建ち始めた、今から40~45年前の高度成長時代。当時建てられた鉄筋コンクリートのマンションの建物が50年以上もつので、現在は全体の戸数(マンションストック戸数)が増えていく一方という状況だからである。 マンション管理会社の収入源の大部分は所有者から毎月徴収する管理費。「全体の戸数×管理費」がそのまま業界の市場規模になる。毎年新たに加わる新築マンション完成分がそのまま市場の伸びとなる。 新築ラッシュだった2007年は、マンション管理の市場も7・2%伸び、成長のピークだった。今回は、市場が拡大するマンション管理業界についてキャリコネに寄せられた各社の口コミを元に分析してみよう。 ◇ デベロッパー系にも「旧財閥系」と「半独立系」がある マンション管理業界の地図は、大きく分けてマンションデベロッパー系の管理会社と、独立系の管理会社がある。 1位は大京、2位はUR都市機構(旧公団の分譲住宅)、3位は東急不動産、5位は三井不動産、6位はコスモイニシア(旧リクルートコスモス)、7位は三菱地所と藤和不動産、8位は長谷工コーポレーション、9位は野村不動産、10位は住友不動産と、それぞれのマンション管理会社となっている。 11位はダイア建設が設立したマンションデベロッパー系で、4位の日本ハウズイングと12位の合人社計画研究所が独立系だ。 デベロッパー系は、例えば、大京アステージの場合、大京が分譲した新築のライオンズマンションの管理はほぼ自動的に獲得できる。 一方、独立系は、所有者が結成したマンション管理組合が、「管理費が高すぎる」などの不満を持ち管理会社の変更を考えた時に、新規の管理物件を獲得するチャンスが生じるケースが多い。そのため管理費はデベロッパー系よりも安めに設定している。 以上のデータをもとに、各社のマンション管理部門の売上高を管理戸数で割って「1戸あたりの売上高」を算出し、金額が少ない順番に並べると、次のようになる。 結果は1位、2位を独立系が占めた。同じ独立系の日本住宅管理(売上高68億円、管理戸数8万戸)の1戸あたり売上高は8・5万円で、それを入れると1~3位に独立系が揃うことになる。 この数字で、独立系は管理費の安さを武器に管理組合に営業攻勢をかけてきたことがはっきりわかる。 デベロッパー系は「親方デベロッパー」で、営業努力をしなくても親会社が完成させた新築マンションの管理が転がり込んでくる。 しかし、後で高めの管理費を押しつけられたマンション所有者の「反乱」にあい、管理組合が管理会社の変更を決議。管理費の安さをアピールして営業攻勢をかけていた独立系に取って代わられるというストーリーが、全国の多くのマンションで展開されている。 ただ、デベロッパー系でも1戸あたりの売上高の低さが3位の長谷工コミュニティと4位のコミュニティワンは、三井、三菱、住友、野村のような旧財閥系とは事情が異なる。 親会社が経営危機におちいり頼りにならないので、何とか自活の道を求め、安い管理費を武器に管理組合に営業攻勢をかけるという独立系のような戦略をとっていることが、このデータでわかる。この2社は「半独立系」と言ってもいいだろう。 また、日本総合住生活の33・2万円は旧財閥系をも上回り、突出して高い。ここは特殊法人改革で、国会で追及の槍玉に挙げられたURの「ファミリー企業」で、正真正銘の「親方日の丸」体質が数字ににじみ出ている。 ◇ 安い管理費で市場を切り取る独立系会社、社員からは低評価 「デベロッパー系、特に旧財閥系は守りの会社、独立系、半独立系は攻めの会社」 数字のデータから、そんな社風の違いがある程度、予想される。 もし、株を買うのなら成長力がありそうな攻めの会社を選びたいが、どの業界でも、そういう会社ほど「給料が安すぎて生活できない」「毎日サービス残業」「数字が全て」「体育会系」「定着率が悪い」など、悪評が社員の間では渦巻いている。 逆に守りの会社、特に旧財閥系企業は「いい人ばかり」「休みがちゃんと取れる」「福利厚生制度充実」など、好感度が大きくなる傾向がある。さて、マンション管理業界の内情はどうだろうか。 まずは独立系から見てみよう。 「古き良き時代?のような体育会系で、なんでも、勢いで済ませてしまうな会社。上下関係がムダに厳しく労務パワーを社内や上司にばかりあてて、お客様にあてていない」(日本ハウズイング、20代後半の男性社員) 「とにかく人の入れ替わりが多くて何がなんだかわからなくなります。派遣さんがほとんどだし、仲の良い者同士で飲みにいくことはあっても社員旅行やイベント等はありません。すれ違っても(自社ビル)知らん顔っていう人が多かった」(合人社計画研究所、20代後半の女性社員) 次はデベロッパー系ながら「半独立系」とした会社である。 「完全に年功序列の体育会系的な雰囲気です。歓迎会やら送別会やらイベント事はよくありますが・・・主役含めて割り勘でした。その割には腹をわらないドライな会社で、静かな暗い感じです」(長谷工コミュニティ、20代後半の男性社員) 独立系は管理費の安さが売り物ということは、社員の給与体系も低めなのだろうか。 「忙しさや業務の責任の重さなどに比較して、給与・賞与が低めと感じられる。残業代で稼ぐという感覚。社歴が長くなると女性でもある程度の役職が付くが、役職手当も少ない。資格取得を積極的に行うよう指導があるが、その割には資格手当てが一切付かない点も少しおかしいように思う」(日本ハウズイング、20代前半の女性社員、年収300万円) 予想した通りで、独立系、半独立系の管理会社の口コミを見ると、低い評価が並んだ。そして、半独立系でも、ディベロッパー系ならではの悪習をいまだに引きずっている次のような話もある。 「不動産業界の景気が悪いと、本体からたくさん異動してきます。来る人たちは普通に部長になっちゃうので、何してるのかよくわかんない部長もいます。昔からの年功序列の会社の特徴なのかもしれないです」(長谷工コミュニティ、20代後半の男性社員) 親会社は営業面では頼りにならなくなったのに、余剰人員は平気で押しつけるらしい。 ◇ 飯のタネの管理物件だけでなく人も親会社から降りてくる 次はデベロッパー系だ。まず、旧財閥系の待遇はどうだろうか。 「報酬はまあまあ妥当。この業界は上(頭打ち)は想像できるが下は下限がないほどひどいので、全体的に同業他社に比べればまずまず良い方。担当物件数が同業他社より少ないと思うので一生この業界で過ごそうと考えている人にとっては良い会社だと思う」(三菱地所コミュニティ、20代後半の男性社員、年収500万円) 「報酬は、メーカー企業と同程度でしょうか。不動産業界としては、少なめです。残業時間も30時間までと決められており、それ以上の残業は基本NG。査定については、完全年功序列。でありながら、毎年数千円のUPのみ」(住友不動産建物サービス、20代後半の男性社員、年収428万円) 社風でも予想通りの口コミが寄せられている。 「社内はとても和気藹々としています。皆親切ですし、困れば必ず誰かが助けてくれます。また、クラブ活動もさかんなので、色々趣味を共有でき入社後すぐに打ち解けることが出来ます。営業職特有のギスギスした感じはまったくなく、皆で協力して行こうという意識が大変高く、とても満足しています」(三菱地所コミュニティ、30代前半の男性社員) 「社員の空気はよく、きつきつしたところは無いが、経営陣からの方針がいろいろ変化し常に仕事は忙しく大変な状況だといえます。しかし、振り替え休日や過度に遅い残業も無くセルフコントロールして業務をこなせる」(住友不動産建物サービス、30代後半の男性社員) 「実質親会社である野村不動産から管理物件をおろしてもらうという構造のため、独立独歩の精神に欠ける。競争心や向上心といったものがあまり感じられない。のんびりとした社風はたしかに居心地のいいものかもしれないが、野村不動産が傾いた時に、この会社はどうするのだろうという疑問を常に感じる」(野村リビングサポート、20代前半の女性社員) もっとも、こうした会社には飯のタネの管理物件だけでなく、人も親会社から降りてくる。 旧財閥系に限らずデベロッパー系にほぼ共通するのは、幹部が親会社からの出向・転籍者で占められ、「出世は望み薄」と思い知らされる「子会社社員の悲哀」である。 「新卒生は課長まで目指せるものの、部長職からは、殆どが住友不動産からの出向者で占める。40代前半の本体社員が社長になっており、それに群がる本体からの部長、さらにその下の課長職でようやくプロパー社員がいる」(住友不動産建物サービス、20代後半の男性社員) この点は、旧財閥系で待遇や社風がまだ恵まれている分、割り切るしかないのだろうか。 ◇ トップ企業、大京アステージと東急コミュニティーは好対照 マンション管理業界のトップ企業は、売上高は大京アステージ、管理戸数では東急コミュニティー。口コミを見ると、両社はかなり対照的だ。 大京アステージは、売上高で業界1位の実績とノウハウが、ポテンシャルの高さと組織のバックアップ体制の充実につながっていると言う。 「同業他社からであれば、バックオフィスのサポートの手厚さに驚かれるかもしれない。マンションアドバイザーとしてのやりがいは上記の態勢もあり、あまりストレス無く思う存分お客様と対峙することが出来、充分感じられるはずであろう」(大京アステージ、30代前半の女性社員) それに対し、管理戸数1位の東急コミュニティーは、商業ビルの管理も兼業していて組織力ではやや見劣りする。しかし、社員には居心地が良さそうだ。 「規模が管理会社にしては大きすぎる。ディベロッパーなどと営業を進める中ではスピード感が最重要なのに社内の処理が煩雑すぎてどうしても時間がかかる事が多くある。また成績がほぼ給与に反映されない体制は、社員が和気あいあいと働く為には必要だろうが業績向上の為にはいかがなものか」(東急コミュニティー、20代前半の男性社員) 待遇面でも対照的である。 「マンション管理会社の中では給料は高い方だと思う。基本的にはグループの決算内容によってボーナスが決まるが、グループではストック事業に力を入れており、グループ内における比重も高まっていることからグループ内でもボーナスは良い様子」(大京アステージ、30代前半の男性社員、年収500万円) 「基本的に会社の規模からみて、非常に給与が安い。20代で額面400万、30代で500~700万程度である。また、昇進に関しても、資格を3つ取得しなければ昇格出来ない制度になっており、取得しても給与には反映しない、いわゆる減点方式となっている。また、査定については、年度毎に行われるが、やってもやらなくてもあまり変わりはない」(東急コミュニティー、20代後半の男性社員、年収400万円) 昇進については、実力主義でシビアな部分があり息苦しさのある大京アステージに対し、東急コミュニティーは年功序列を残していて、緊張感に欠ける部分があると言う。 「査定はシビアですが、実力で昇進できます。一回、出世街道から外れると、出世は見込みは無くなります(略)閉鎖的な組織なので、働いていると、息苦しくなります」(大京アステージ、30代後半の男性社員) 「出世争いが活発とは言えない会社です。真面目に勤務すればほとんど誰でも課長までいけます。新卒の場合、最短で入社13年で管理職になれます。遅くとも40歳くらいまでにはなれます。個人の業績が見えにくい職種なので、続けていれば自然と昇格昇給が可能です」(東急コミュニティー、20代前半の男性社員) 東急コミュニティーについては、大卒新卒入社は大きなミスをしなければ誰でも課長までは行けるというが、中途採用の社員に対しては昇進面で明らかな差別があり、管理職になれる可能性はほとんどないという。 「中途採用(30歳)で入社しました。基本給が大卒新人と同じで、年齢給の上限が35歳まで。住宅・家族手当無し。新卒者と比べて、昇格スピードが明らかに違い、管理職(部長)以上は親会社からの出向者ばかりで、給与体系が違うのに一般社員へのノルマは厳しくて、モチベーションが下がる一方です」(東急コミュニティー、30代前半の男性社員) 同じ正社員でも扱いが違うのは、大卒のホワイトカラー(=将校)と現場のブルーカラー(=兵士)では、出入り口も服装も食堂も言葉遣いも全く異なるという「疑似軍隊」の階級組織になっていた「昭和以前の会社」の伝統を受け継いでいるのだろう。 ◇ 悪質クレーマーとの戦いはエンドレス? マンションを購入してそこに住む人が、収入も社会的信用も教養の程度も一定レベル以上のホワイトカラーばかりだったのは、何十年も昔の話だ。 住宅ローンが普及し、しかも史上最低金利で、中古マンションの売物件が不動産市場にあふれ返っている現状では、ある程度の定収入があれば「誰でも買える」と思っていい。 所有者の中には「管理費を払ってるお客様は神様だろう」と管理会社に威張り散らすだけでなく、カネ目当てで難癖をつける悪質クレーマーもいるという。 一般の人が相手のサービス業の宿命とはいえ、管理会社の担当者にとっては、その対応はさぞ、つらいものがあるだろう。 「管理会社にはつきものの、クレーマー対応。仕方ないが、一度その物件を担当すると、たいてい数年間担当者の変更がないため、クレーマーとの戦いはエンドレス。いかに割り切れるかが勝負となります」(野村リビングサポート、20代後半の男性社員) 「この職種は俗にクレーム産業といわれております。休日でも緊急センターから会社用の携帯電話にクレームがかかってきたりすることもあります」(三菱地所コミュニティ、30代後半の男性社員) 「居住者のモラルのなさには、正直あきれることが多い。非常に協力的・建設的な方もいれば、とにかく自分のことだけ。理事会・総会で問題の解決を話し合う時も、妥協点を見出さず、自分は間違っていないという考えで、一歩も譲らない。たいていのマンションでは多かれ少なかれあることだが、マンションに住むことをためらってしまう」(大京アステージ、20代後半の男性社員) マンション管理会社に勤める社員が、マンションに住むのを考えてしまうというのだから、よほどひどいのだろうか。 しかし、所有者の収入、社会的信用、教養の程度が相当ハイレベルであっても、それはそれで大変らしい。 「都心のマンション管理組合を顧客として有しており、顧客レベルが非常に高いため(一部上場企業の役員クラスの方、弁護士、各界著名人等多数)、対応には非常に神経を使うことも多く、契約更新や各種工事受注活動等に対する努力は並大抵のものではない」(東急コミュニティー、30代後半の男性社員) もっとも、それを一種のステータスと感じている社員もいることだろう。悪魔のようなクレーマーよりは、はるかにマシである。 ◇ 老朽化マンションの建て替えで業界地図は激しく変動する マンション管理業界は不況の影響を受けずに右肩上がりの成長が続いてきたが、それも「せいぜいあと10年」と言われている。 1970年代前半の「第一次マンションブーム」で建てられたマンションが老朽化し、2020年以降に次々と建て替えの時期を迎える。70年代に建てられたマンションは間取りは同じでも面積が狭くて壁が薄く、設備が古い。 こうしたマンションは、建て替えで新築にふさわしい居住品質をクリアし、駐車場や緑地帯や共用施設を確保すると、2~3割程度の戸数減はまず避けられないといわれている。なかには建築後の建築法令や条例の改正、周辺環境の変化で、建て替えできなくなった物件もある。 将来、建て替えによる戸数減が新築による戸数増を上回るようになると、マンション管理業界は史上初めての市場の縮小に直面することになる。2008年以降の新築戸数の急減で、その危機感はますます強くなっている。 減った管理戸数を新築の戸数で埋め合わせできなければ、他社から奪って取り戻す以外にない。 そのため、現在、独立系や半独立系の管理会社が行う、管理組合へ安い管理費を武器に営業攻勢をかけ、管理会社の変更を決議させるという戦略を、デベロッパー系でも旧財閥系でも積極的に始めることが予想される。 競争が激化し、限られたパイを奪いあい、敗れた会社は淘汰されていく。業界地図は激しく変動しそうだ。各社の現在の社風も変化していくだろう。 矢野経済研究所の「マンション管理市場に関する調査結果2011」のレポートには、注目すべき動向として、こう書かれている。 「デベロッパー系のマンション管理会社であっても、価格低減は避けられず、独立系のマンション管理会社との価格差は小さくなってきている。したがって、これからの競争のステージは、『サービスの品質』と『価格』の両面からバランスの取れた総合力が重視されると予測する」 管理会社は管理費を安くするのが当たり前になると、価格だけでは差がつかなくなる。 そうなれば、「品質」「アイデア」「創意工夫」「顧客満足度」で「この管理会社と付きあう価値」を管理組合に認めさせない限り、管理費が多少安い程度では、あっさり他社に持っていかれてしまう。 サービス業では、そうした価値を生み出せるのは、人材以外にはない。 独立系であろうと、半独立系であろうと、デベロッパー系であろうと、旧財閥系であろうと、特殊法人のファミリー企業であろうと、殺伐とした環境の中で人材をすりつぶしているだけの管理会社は結局、淘汰されていく。人材を大切にし、そこからより多くの価値を引き出せる管理会社が、長い目で見れば生き残るのだろう。 *「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。2012年7月末現在、45万社、19万件の口コミが登録されています。
マンション管理業界 10年後に来る市場の大変化、生き残るのはどこだ?
都市部に住む日本人の住まいとしてすっかり定着した「マンション」。英語圏では「コンドミニアム」と呼ばれるビル状の集合住宅をあらわす和製英語だ。
その分譲マンションは2011年末現在、全国で約579万6000戸が建ち、約1400万人が暮らしている(国土交通省「全国のマンションストック戸数」)。
国土交通省の調査では、全国の新築マンション供給戸数は2007年、過去最多の22万7000戸を記録した。その後は16万7000戸、17万戸、9万2000戸と減少。2011年は8万2000戸と、4年前のピーク時より約3分の1に落ち込んだ。マンションの企画・開発・分譲をするマンションデベロッパーの市場は、リーマンショック後の不況で急速に縮小してしまった。
ところが、完成し分譲した後のマンションを管理する「マンション管理会社」の業界は、建設・不動産関連にしては珍しく、リーマンショックの影響を受けても伸び率が低下しただけで、市場は右肩上がりの成長がずっと続いたままだ。
市場は、2005年からの7年間で約4割も増加している。日本でマンションが本格的に建ち始めた、今から40~45年前の高度成長時代。当時建てられた鉄筋コンクリートのマンションの建物が50年以上もつので、現在は全体の戸数(マンションストック戸数)が増えていく一方という状況だからである。
マンション管理会社の収入源の大部分は所有者から毎月徴収する管理費。「全体の戸数×管理費」がそのまま業界の市場規模になる。毎年新たに加わる新築マンション完成分がそのまま市場の伸びとなる。
新築ラッシュだった2007年は、マンション管理の市場も7・2%伸び、成長のピークだった。今回は、市場が拡大するマンション管理業界についてキャリコネに寄せられた各社の口コミを元に分析してみよう。
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デベロッパー系にも「旧財閥系」と「半独立系」がある
マンション管理業界の地図は、大きく分けてマンションデベロッパー系の管理会社と、独立系の管理会社がある。
1位は大京、2位はUR都市機構(旧公団の分譲住宅)、3位は東急不動産、5位は三井不動産、6位はコスモイニシア(旧リクルートコスモス)、7位は三菱地所と藤和不動産、8位は長谷工コーポレーション、9位は野村不動産、10位は住友不動産と、それぞれのマンション管理会社となっている。
11位はダイア建設が設立したマンションデベロッパー系で、4位の日本ハウズイングと12位の合人社計画研究所が独立系だ。
デベロッパー系は、例えば、大京アステージの場合、大京が分譲した新築のライオンズマンションの管理はほぼ自動的に獲得できる。
一方、独立系は、所有者が結成したマンション管理組合が、「管理費が高すぎる」などの不満を持ち管理会社の変更を考えた時に、新規の管理物件を獲得するチャンスが生じるケースが多い。そのため管理費はデベロッパー系よりも安めに設定している。
以上のデータをもとに、各社のマンション管理部門の売上高を管理戸数で割って「1戸あたりの売上高」を算出し、金額が少ない順番に並べると、次のようになる。
結果は1位、2位を独立系が占めた。同じ独立系の日本住宅管理(売上高68億円、管理戸数8万戸)の1戸あたり売上高は8・5万円で、それを入れると1~3位に独立系が揃うことになる。
この数字で、独立系は管理費の安さを武器に管理組合に営業攻勢をかけてきたことがはっきりわかる。
デベロッパー系は「親方デベロッパー」で、営業努力をしなくても親会社が完成させた新築マンションの管理が転がり込んでくる。
しかし、後で高めの管理費を押しつけられたマンション所有者の「反乱」にあい、管理組合が管理会社の変更を決議。管理費の安さをアピールして営業攻勢をかけていた独立系に取って代わられるというストーリーが、全国の多くのマンションで展開されている。
ただ、デベロッパー系でも1戸あたりの売上高の低さが3位の長谷工コミュニティと4位のコミュニティワンは、三井、三菱、住友、野村のような旧財閥系とは事情が異なる。
親会社が経営危機におちいり頼りにならないので、何とか自活の道を求め、安い管理費を武器に管理組合に営業攻勢をかけるという独立系のような戦略をとっていることが、このデータでわかる。この2社は「半独立系」と言ってもいいだろう。
また、日本総合住生活の33・2万円は旧財閥系をも上回り、突出して高い。ここは特殊法人改革で、国会で追及の槍玉に挙げられたURの「ファミリー企業」で、正真正銘の「親方日の丸」体質が数字ににじみ出ている。
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安い管理費で市場を切り取る独立系会社、社員からは低評価
「デベロッパー系、特に旧財閥系は守りの会社、独立系、半独立系は攻めの会社」
数字のデータから、そんな社風の違いがある程度、予想される。
もし、株を買うのなら成長力がありそうな攻めの会社を選びたいが、どの業界でも、そういう会社ほど「給料が安すぎて生活できない」「毎日サービス残業」「数字が全て」「体育会系」「定着率が悪い」など、悪評が社員の間では渦巻いている。
逆に守りの会社、特に旧財閥系企業は「いい人ばかり」「休みがちゃんと取れる」「福利厚生制度充実」など、好感度が大きくなる傾向がある。さて、マンション管理業界の内情はどうだろうか。
まずは独立系から見てみよう。
「古き良き時代?のような体育会系で、なんでも、勢いで済ませてしまうな会社。上下関係がムダに厳しく労務パワーを社内や上司にばかりあてて、お客様にあてていない」(日本ハウズイング、20代後半の男性社員)
「とにかく人の入れ替わりが多くて何がなんだかわからなくなります。派遣さんがほとんどだし、仲の良い者同士で飲みにいくことはあっても社員旅行やイベント等はありません。すれ違っても(自社ビル)知らん顔っていう人が多かった」(合人社計画研究所、20代後半の女性社員)
次はデベロッパー系ながら「半独立系」とした会社である。
「完全に年功序列の体育会系的な雰囲気です。歓迎会やら送別会やらイベント事はよくありますが・・・主役含めて割り勘でした。その割には腹をわらないドライな会社で、静かな暗い感じです」(長谷工コミュニティ、20代後半の男性社員)
独立系は管理費の安さが売り物ということは、社員の給与体系も低めなのだろうか。
「忙しさや業務の責任の重さなどに比較して、給与・賞与が低めと感じられる。残業代で稼ぐという感覚。社歴が長くなると女性でもある程度の役職が付くが、役職手当も少ない。資格取得を積極的に行うよう指導があるが、その割には資格手当てが一切付かない点も少しおかしいように思う」(日本ハウズイング、20代前半の女性社員、年収300万円)
予想した通りで、独立系、半独立系の管理会社の口コミを見ると、低い評価が並んだ。そして、半独立系でも、ディベロッパー系ならではの悪習をいまだに引きずっている次のような話もある。
「不動産業界の景気が悪いと、本体からたくさん異動してきます。来る人たちは普通に部長になっちゃうので、何してるのかよくわかんない部長もいます。昔からの年功序列の会社の特徴なのかもしれないです」(長谷工コミュニティ、20代後半の男性社員)
親会社は営業面では頼りにならなくなったのに、余剰人員は平気で押しつけるらしい。
◇
飯のタネの管理物件だけでなく人も親会社から降りてくる
次はデベロッパー系だ。まず、旧財閥系の待遇はどうだろうか。
「報酬はまあまあ妥当。この業界は上(頭打ち)は想像できるが下は下限がないほどひどいので、全体的に同業他社に比べればまずまず良い方。担当物件数が同業他社より少ないと思うので一生この業界で過ごそうと考えている人にとっては良い会社だと思う」(三菱地所コミュニティ、20代後半の男性社員、年収500万円)
「報酬は、メーカー企業と同程度でしょうか。不動産業界としては、少なめです。残業時間も30時間までと決められており、それ以上の残業は基本NG。査定については、完全年功序列。でありながら、毎年数千円のUPのみ」(住友不動産建物サービス、20代後半の男性社員、年収428万円)
社風でも予想通りの口コミが寄せられている。
「社内はとても和気藹々としています。皆親切ですし、困れば必ず誰かが助けてくれます。また、クラブ活動もさかんなので、色々趣味を共有でき入社後すぐに打ち解けることが出来ます。営業職特有のギスギスした感じはまったくなく、皆で協力して行こうという意識が大変高く、とても満足しています」(三菱地所コミュニティ、30代前半の男性社員)
「社員の空気はよく、きつきつしたところは無いが、経営陣からの方針がいろいろ変化し常に仕事は忙しく大変な状況だといえます。しかし、振り替え休日や過度に遅い残業も無くセルフコントロールして業務をこなせる」(住友不動産建物サービス、30代後半の男性社員)
「実質親会社である野村不動産から管理物件をおろしてもらうという構造のため、独立独歩の精神に欠ける。競争心や向上心といったものがあまり感じられない。のんびりとした社風はたしかに居心地のいいものかもしれないが、野村不動産が傾いた時に、この会社はどうするのだろうという疑問を常に感じる」(野村リビングサポート、20代前半の女性社員)
もっとも、こうした会社には飯のタネの管理物件だけでなく、人も親会社から降りてくる。
旧財閥系に限らずデベロッパー系にほぼ共通するのは、幹部が親会社からの出向・転籍者で占められ、「出世は望み薄」と思い知らされる「子会社社員の悲哀」である。
「新卒生は課長まで目指せるものの、部長職からは、殆どが住友不動産からの出向者で占める。40代前半の本体社員が社長になっており、それに群がる本体からの部長、さらにその下の課長職でようやくプロパー社員がいる」(住友不動産建物サービス、20代後半の男性社員)
この点は、旧財閥系で待遇や社風がまだ恵まれている分、割り切るしかないのだろうか。
◇
トップ企業、大京アステージと東急コミュニティーは好対照
マンション管理業界のトップ企業は、売上高は大京アステージ、管理戸数では東急コミュニティー。口コミを見ると、両社はかなり対照的だ。
大京アステージは、売上高で業界1位の実績とノウハウが、ポテンシャルの高さと組織のバックアップ体制の充実につながっていると言う。
「同業他社からであれば、バックオフィスのサポートの手厚さに驚かれるかもしれない。マンションアドバイザーとしてのやりがいは上記の態勢もあり、あまりストレス無く思う存分お客様と対峙することが出来、充分感じられるはずであろう」(大京アステージ、30代前半の女性社員)
それに対し、管理戸数1位の東急コミュニティーは、商業ビルの管理も兼業していて組織力ではやや見劣りする。しかし、社員には居心地が良さそうだ。
「規模が管理会社にしては大きすぎる。ディベロッパーなどと営業を進める中ではスピード感が最重要なのに社内の処理が煩雑すぎてどうしても時間がかかる事が多くある。また成績がほぼ給与に反映されない体制は、社員が和気あいあいと働く為には必要だろうが業績向上の為にはいかがなものか」(東急コミュニティー、20代前半の男性社員)
待遇面でも対照的である。
「マンション管理会社の中では給料は高い方だと思う。基本的にはグループの決算内容によってボーナスが決まるが、グループではストック事業に力を入れており、グループ内における比重も高まっていることからグループ内でもボーナスは良い様子」(大京アステージ、30代前半の男性社員、年収500万円)
「基本的に会社の規模からみて、非常に給与が安い。20代で額面400万、30代で500~700万程度である。また、昇進に関しても、資格を3つ取得しなければ昇格出来ない制度になっており、取得しても給与には反映しない、いわゆる減点方式となっている。また、査定については、年度毎に行われるが、やってもやらなくてもあまり変わりはない」(東急コミュニティー、20代後半の男性社員、年収400万円)
昇進については、実力主義でシビアな部分があり息苦しさのある大京アステージに対し、東急コミュニティーは年功序列を残していて、緊張感に欠ける部分があると言う。
「査定はシビアですが、実力で昇進できます。一回、出世街道から外れると、出世は見込みは無くなります(略)閉鎖的な組織なので、働いていると、息苦しくなります」(大京アステージ、30代後半の男性社員)
「出世争いが活発とは言えない会社です。真面目に勤務すればほとんど誰でも課長までいけます。新卒の場合、最短で入社13年で管理職になれます。遅くとも40歳くらいまでにはなれます。個人の業績が見えにくい職種なので、続けていれば自然と昇格昇給が可能です」(東急コミュニティー、20代前半の男性社員)
東急コミュニティーについては、大卒新卒入社は大きなミスをしなければ誰でも課長までは行けるというが、中途採用の社員に対しては昇進面で明らかな差別があり、管理職になれる可能性はほとんどないという。
「中途採用(30歳)で入社しました。基本給が大卒新人と同じで、年齢給の上限が35歳まで。住宅・家族手当無し。新卒者と比べて、昇格スピードが明らかに違い、管理職(部長)以上は親会社からの出向者ばかりで、給与体系が違うのに一般社員へのノルマは厳しくて、モチベーションが下がる一方です」(東急コミュニティー、30代前半の男性社員)
同じ正社員でも扱いが違うのは、大卒のホワイトカラー(=将校)と現場のブルーカラー(=兵士)では、出入り口も服装も食堂も言葉遣いも全く異なるという「疑似軍隊」の階級組織になっていた「昭和以前の会社」の伝統を受け継いでいるのだろう。
◇
悪質クレーマーとの戦いはエンドレス?
マンションを購入してそこに住む人が、収入も社会的信用も教養の程度も一定レベル以上のホワイトカラーばかりだったのは、何十年も昔の話だ。
住宅ローンが普及し、しかも史上最低金利で、中古マンションの売物件が不動産市場にあふれ返っている現状では、ある程度の定収入があれば「誰でも買える」と思っていい。
所有者の中には「管理費を払ってるお客様は神様だろう」と管理会社に威張り散らすだけでなく、カネ目当てで難癖をつける悪質クレーマーもいるという。
一般の人が相手のサービス業の宿命とはいえ、管理会社の担当者にとっては、その対応はさぞ、つらいものがあるだろう。
「管理会社にはつきものの、クレーマー対応。仕方ないが、一度その物件を担当すると、たいてい数年間担当者の変更がないため、クレーマーとの戦いはエンドレス。いかに割り切れるかが勝負となります」(野村リビングサポート、20代後半の男性社員)
「この職種は俗にクレーム産業といわれております。休日でも緊急センターから会社用の携帯電話にクレームがかかってきたりすることもあります」(三菱地所コミュニティ、30代後半の男性社員)
「居住者のモラルのなさには、正直あきれることが多い。非常に協力的・建設的な方もいれば、とにかく自分のことだけ。理事会・総会で問題の解決を話し合う時も、妥協点を見出さず、自分は間違っていないという考えで、一歩も譲らない。たいていのマンションでは多かれ少なかれあることだが、マンションに住むことをためらってしまう」(大京アステージ、20代後半の男性社員)
マンション管理会社に勤める社員が、マンションに住むのを考えてしまうというのだから、よほどひどいのだろうか。
しかし、所有者の収入、社会的信用、教養の程度が相当ハイレベルであっても、それはそれで大変らしい。
「都心のマンション管理組合を顧客として有しており、顧客レベルが非常に高いため(一部上場企業の役員クラスの方、弁護士、各界著名人等多数)、対応には非常に神経を使うことも多く、契約更新や各種工事受注活動等に対する努力は並大抵のものではない」(東急コミュニティー、30代後半の男性社員)
もっとも、それを一種のステータスと感じている社員もいることだろう。悪魔のようなクレーマーよりは、はるかにマシである。
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老朽化マンションの建て替えで業界地図は激しく変動する
マンション管理業界は不況の影響を受けずに右肩上がりの成長が続いてきたが、それも「せいぜいあと10年」と言われている。
1970年代前半の「第一次マンションブーム」で建てられたマンションが老朽化し、2020年以降に次々と建て替えの時期を迎える。70年代に建てられたマンションは間取りは同じでも面積が狭くて壁が薄く、設備が古い。
こうしたマンションは、建て替えで新築にふさわしい居住品質をクリアし、駐車場や緑地帯や共用施設を確保すると、2~3割程度の戸数減はまず避けられないといわれている。なかには建築後の建築法令や条例の改正、周辺環境の変化で、建て替えできなくなった物件もある。
将来、建て替えによる戸数減が新築による戸数増を上回るようになると、マンション管理業界は史上初めての市場の縮小に直面することになる。2008年以降の新築戸数の急減で、その危機感はますます強くなっている。
減った管理戸数を新築の戸数で埋め合わせできなければ、他社から奪って取り戻す以外にない。
そのため、現在、独立系や半独立系の管理会社が行う、管理組合へ安い管理費を武器に営業攻勢をかけ、管理会社の変更を決議させるという戦略を、デベロッパー系でも旧財閥系でも積極的に始めることが予想される。
競争が激化し、限られたパイを奪いあい、敗れた会社は淘汰されていく。業界地図は激しく変動しそうだ。各社の現在の社風も変化していくだろう。
矢野経済研究所の「マンション管理市場に関する調査結果2011」のレポートには、注目すべき動向として、こう書かれている。
「デベロッパー系のマンション管理会社であっても、価格低減は避けられず、独立系のマンション管理会社との価格差は小さくなってきている。したがって、これからの競争のステージは、『サービスの品質』と『価格』の両面からバランスの取れた総合力が重視されると予測する」
管理会社は管理費を安くするのが当たり前になると、価格だけでは差がつかなくなる。
そうなれば、「品質」「アイデア」「創意工夫」「顧客満足度」で「この管理会社と付きあう価値」を管理組合に認めさせない限り、管理費が多少安い程度では、あっさり他社に持っていかれてしまう。
サービス業では、そうした価値を生み出せるのは、人材以外にはない。
独立系であろうと、半独立系であろうと、デベロッパー系であろうと、旧財閥系であろうと、特殊法人のファミリー企業であろうと、殺伐とした環境の中で人材をすりつぶしているだけの管理会社は結局、淘汰されていく。人材を大切にし、そこからより多くの価値を引き出せる管理会社が、長い目で見れば生き残るのだろう。
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