レンタカー業界 地味だが「所有から利用」を追い風に市場は拡大 2013年1月10日 企業徹底研究 ツイート 自動車の国内販売は、「不況による所得の減少と生活防衛意識」「買い替え時期の先延ばし」「若者のクルマ離れ」「エコカー減税の打ち切り」などで不振続きだが、「レンタカー」の市場は徐々に拡大。約5000億円規模の隠れた成長市場となっている。 都心部では貨物の運搬や人の移動などでの法人需要が多く、大都市近郊では個人のショッピングやレジャーに利用されている。 一方、公共交通が大都市ほど便利ではない地方都市では出張や旅行で訪れた人の足代わりに使われており、レンタカーの需要は全国的に底堅い。 「2012自動車レンタリース年鑑」によると、全国の各年度末のレンタカー保有台数は2006年度は355万台だったが、11年度は426万台と右肩上がりに増え、5年間で71万台、20%も増加した。 リーマンショック以降、法人需要は企業が固定費を削減しようと社有車を減らす動きが進み、市場は安定。個人需要も、所得減や転居でマイカーを手放した人が新たな利用者になったほか、最初からクルマを持たず「必要な時はレンタカーで十分」と考える人も増えている。 こうした「所有から利用へ」という流れが世の中に定着しつつあることが、レンタカーにとって追い風となっている。今回は、このレンタカー業界について、キャリコネに寄せられた各社の社員の声を基に分析していこう。 ◇ レンタカーにも押し寄せる価格破壊の波 レンタカー会社で思い浮かぶのは、トヨタ、日産、マツダなど自動車メーカーの社名がついた「メーカー系」だろう。車種は原則としてそのメーカーのクルマだけ。それ以外に各メーカーのクルマを揃える「独立系」の大手がいくつかあり、全国ネットワークを張りめぐらせている。 その大手も業界再編で、マツダレンタカーは時間貸し駐車場最大手のパーク24の傘下に、ジャパレンとエックスレンタカーはオリックス自動車の傘下に入ったが、ブランドは存続している。 地方都市に行くと鉄道やバス、タクシー会社、自動車販売店、ガソリンスタンドの会社などがレンタカー事業を運営しているが、大手レンタカー会社とフランチャイズ契約を結び、その看板を掲げている例が少なくない。 大手レンタカー会社は「カーリース」も手がけるが、長期契約の「リース」はクルマは契約者が用意する駐車場に停めて、塗装も内装も好きなように変更できるため、所有車と見分けがつかない。「レンタル」と「リース」は全く異なるビジネスなのだ。 「価格破壊」を旗印にチャレンジャーも登場している。その1社が中古車買取店から06年に参入したワンズネットワーク(ワンズレンタカー、約400拠点)だ。「当日返し2625円から」を売り文句にしている。 もう1社が、ガソリンスタンド対象のコンサル会社から08年に参入したレンタス(ニコニコレンタカー、全国約900拠点)。こちらは「12時間2525円から」の低料金で、大手に攻勢をかけている。2社ともに格安で仕入れた低年式の中古車を揃えて、フランチャイズ方式で拠点を拡大しているのが特徴だ。 ◇ 「労働時間に見合わない報酬」という不満が多い 一方で、レンタカー業界の報酬水準はどうなっているのだろうか。社員の声を拾うと、親会社が金融企業のオリックス自動車を除けばメーカー系も独立系も似たり寄ったりのようだ。 「給与は同業他社に比べると多少は高いのではないだろうか」(オリックス自動車、20代後半の男性社員、年収450万円) 「不定休な休日と、拘束時間が無駄に長く安い給料で完全に割に合わない」(トヨタレンタリース栃木、20代後半の男性社員、年収228万円) 「報酬は基本的に低め。月の収入のほとんどは残業に依存。しかし、この経済状況下で残業時間が減らされて、月の給与が激減」(日産カーレンタルソリューション、20代後半の男性契約社員、年収452万円) 「基本朝8時~夜8時の12時間拘束で、残業ありきの年収です。ちなみに月50~60時間の残業をしてこの年収。休憩時間は店舗にもよりますが、食事をしながら待機ですので、ないようなものです。昇給は年齢給以外は期待できない」(ニッポンレンタカーアーバンネット、30代前半の男性社員、年収410万円) どの企業も、夜間営業や車両の回送などで勤務時間が長くなりがちなのに報酬が割に合わないという社員の声が多い。 ◇ 「クルマと言えばトヨタ」と言う日産系社員 レンタカーはクルマ関係のビジネスの中でも比較的地味で、業績が安定しているため、危機感が薄く、古い体質を残している社風のようだ。 例えば、出世については、「望み薄」というニュアンスの声が多い。これは上のポストが詰まっているためで、年功序列型の賃金や昇進に不満が渦巻いている。 「基本的には年功序列で出世していくケースが見受けられる。営業職では優秀な営業マンでも、役職がつくまで何年というひとつのバーがあり、そのバーに満たなければいくら営業成績を伸ばしたところで平社員のままである。ましてや今では役職者が詰まってきてる状況で年々バーが上がっていく傾向にある」(トヨタレンタリース東京、20代前半の男性社員) 「所長以上はほぼなれません。エリアマネージャーなどの昇格の可能性もありますが、その上の地区長などが長い期間で腰を落ち着かせていることが多いのでなかなか、頻繁に昇格はしません。実際エリアマネージャーになっても給料はあまり変わりません」(ニッポンレンタカーアーバンネット、30代前半の男性社員) 市場が拡大し、業績も安定しているレンタカー業界だが、実際に働くレンタカー会社の社員は、業界や会社の将来をどう見ているのだろうか。 「今も将来も不安になる。抜本的な構造改革をしない限り、今も昔も変わることはない」(ニッポンレンタカーアーバンネット、20代後半の男性社員) 「将来性については少し問題があると感じています。現在、人が多く昇格がかなり遅れていると思います。そのせいで優秀な人材が転職し、いなくなってしまっている状態があります」(トヨタレンタリース東京、20代の男性社員) この会社については、「業界1位でいられるのはトヨタブランドのおかげ」という声もあった。一方でライバルメーカー系のレンタカー会社の社員はこう見ている。 「やはり、自動車といったらトヨタ。車のきれいさと、スタッフの対応など『一流』のものを求める顧客はトヨタに行く。やはり、トヨタのブランド力には勝てない」(日産カーレンタルソリューション、20代前半の女性社員) もし、日産自動車のカルロス・ゴーン社長がこの声を聞いたら、何と言うだろうか。 ◇ 外販活動を強化し、カーシェアリングに期待をかける レンタカー会社というと、営業所でクルマを磨きながら「ご用命をお待ちしています」という「待ちの営業」的なイメージがあるが、競争が激化する中、大手は法人顧客に対する「外販活動」の強化に乗り出している。 外販活動とは、レンタカー利用を働きかける外回り営業を指す。例えばメーカーA社系レンタカー会社の営業マンが、社有車のA社の新車の買い替えに待ったをかけるケースもあるという。 A社系販売会社には「身内の敵」にも思えるが、カーリースとレンタカーを併用した提案をすることで、リースでの新車販売につながるので、最前線では販売会社の営業マンとの共同戦線もみられるという。 これは「コンビネーションリース」と呼ばれる。本社と工場の移動用など一定の需要にはカーリースで必要最低限のクルマを常備しておき、展示会など臨時の需要や季節変動の繁忙期需要には時間貸しのレンタカーで手当てするというような効率的な車両運用を企業に提案する。 コンビネーションリースは、一種の「ソリューションビジネス」といえる。企業に効率化やコストダウンにつながる提案を行い、新たな潜在需要を掘り起こそうというのだ。このビジネスが広まれば、レンタカー会社も従来と異なるスキルの人材が必要となり、キャリアパス、報酬体系、教育などの社内体制にも変化が生まれるかもしれない。 また、レンタカー各社が個人需要の分野で将来は有望とみて進出を図っているのが「カーシェアリング」。これは、会員制でクルマを「共有(シェア)」し、専用の「ステーション」にあるクルマを“足代わり”に利用する仕組みだ。 会員は、子どもの送り迎えや買い物などの短時間使用で、レンタカーより安い料金で利用できる。会員以外にはクルマを貸さず、細かい料金計算を行うのがレンタカーと違う点だが、レンタカー業界は「クルマを貸す」ことで培った従来のノウハウを活用できる。 カーシェアリングにはオリックス自動車、タイムズモビリティネットワークス(マツダレンタカー)などが進出。ただ時間貸し駐車場業、総合商社、マンションデベロッパーの不動産会社も参入するなど、ライバルも多い。 欧州で生まれたカーシェアリングは日本では認知度がまだまだ低い。便利さが認められて利用が軌道に乗るまで赤字覚悟の運用が現状では必要だ。しかし、それに我慢できず、すでに撤退・倒産した業者もいる。 しかし、市場は期待が持てる。矢野経済研究所では、11年に前年の約24億円から2.5倍の61億3700万円に増加した市場規模は、12年に約2倍の116億9700億円まで拡大と予測している。 米国でもカーシェアリングは注目の新産業で、レンタカー大手のエイビスがジップカー社を買収して進出すると発表した。日本のレンタカー業界も、この期待の新市場で花を咲かせることができるだろうか。
レンタカー業界 地味だが「所有から利用」を追い風に市場は拡大
自動車の国内販売は、「不況による所得の減少と生活防衛意識」「買い替え時期の先延ばし」「若者のクルマ離れ」「エコカー減税の打ち切り」などで不振続きだが、「レンタカー」の市場は徐々に拡大。約5000億円規模の隠れた成長市場となっている。
都心部では貨物の運搬や人の移動などでの法人需要が多く、大都市近郊では個人のショッピングやレジャーに利用されている。
一方、公共交通が大都市ほど便利ではない地方都市では出張や旅行で訪れた人の足代わりに使われており、レンタカーの需要は全国的に底堅い。
「2012自動車レンタリース年鑑」によると、全国の各年度末のレンタカー保有台数は2006年度は355万台だったが、11年度は426万台と右肩上がりに増え、5年間で71万台、20%も増加した。
リーマンショック以降、法人需要は企業が固定費を削減しようと社有車を減らす動きが進み、市場は安定。個人需要も、所得減や転居でマイカーを手放した人が新たな利用者になったほか、最初からクルマを持たず「必要な時はレンタカーで十分」と考える人も増えている。
こうした「所有から利用へ」という流れが世の中に定着しつつあることが、レンタカーにとって追い風となっている。今回は、このレンタカー業界について、キャリコネに寄せられた各社の社員の声を基に分析していこう。
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レンタカーにも押し寄せる価格破壊の波
レンタカー会社で思い浮かぶのは、トヨタ、日産、マツダなど自動車メーカーの社名がついた「メーカー系」だろう。車種は原則としてそのメーカーのクルマだけ。それ以外に各メーカーのクルマを揃える「独立系」の大手がいくつかあり、全国ネットワークを張りめぐらせている。
その大手も業界再編で、マツダレンタカーは時間貸し駐車場最大手のパーク24の傘下に、ジャパレンとエックスレンタカーはオリックス自動車の傘下に入ったが、ブランドは存続している。
地方都市に行くと鉄道やバス、タクシー会社、自動車販売店、ガソリンスタンドの会社などがレンタカー事業を運営しているが、大手レンタカー会社とフランチャイズ契約を結び、その看板を掲げている例が少なくない。
大手レンタカー会社は「カーリース」も手がけるが、長期契約の「リース」はクルマは契約者が用意する駐車場に停めて、塗装も内装も好きなように変更できるため、所有車と見分けがつかない。「レンタル」と「リース」は全く異なるビジネスなのだ。
「価格破壊」を旗印にチャレンジャーも登場している。その1社が中古車買取店から06年に参入したワンズネットワーク(ワンズレンタカー、約400拠点)だ。「当日返し2625円から」を売り文句にしている。
もう1社が、ガソリンスタンド対象のコンサル会社から08年に参入したレンタス(ニコニコレンタカー、全国約900拠点)。こちらは「12時間2525円から」の低料金で、大手に攻勢をかけている。2社ともに格安で仕入れた低年式の中古車を揃えて、フランチャイズ方式で拠点を拡大しているのが特徴だ。
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「労働時間に見合わない報酬」という不満が多い
一方で、レンタカー業界の報酬水準はどうなっているのだろうか。社員の声を拾うと、親会社が金融企業のオリックス自動車を除けばメーカー系も独立系も似たり寄ったりのようだ。
「給与は同業他社に比べると多少は高いのではないだろうか」(オリックス自動車、20代後半の男性社員、年収450万円)
「不定休な休日と、拘束時間が無駄に長く安い給料で完全に割に合わない」(トヨタレンタリース栃木、20代後半の男性社員、年収228万円)
「報酬は基本的に低め。月の収入のほとんどは残業に依存。しかし、この経済状況下で残業時間が減らされて、月の給与が激減」(日産カーレンタルソリューション、20代後半の男性契約社員、年収452万円)
「基本朝8時~夜8時の12時間拘束で、残業ありきの年収です。ちなみに月50~60時間の残業をしてこの年収。休憩時間は店舗にもよりますが、食事をしながら待機ですので、ないようなものです。昇給は年齢給以外は期待できない」(ニッポンレンタカーアーバンネット、30代前半の男性社員、年収410万円)
どの企業も、夜間営業や車両の回送などで勤務時間が長くなりがちなのに報酬が割に合わないという社員の声が多い。
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「クルマと言えばトヨタ」と言う日産系社員
レンタカーはクルマ関係のビジネスの中でも比較的地味で、業績が安定しているため、危機感が薄く、古い体質を残している社風のようだ。
例えば、出世については、「望み薄」というニュアンスの声が多い。これは上のポストが詰まっているためで、年功序列型の賃金や昇進に不満が渦巻いている。
「基本的には年功序列で出世していくケースが見受けられる。営業職では優秀な営業マンでも、役職がつくまで何年というひとつのバーがあり、そのバーに満たなければいくら営業成績を伸ばしたところで平社員のままである。ましてや今では役職者が詰まってきてる状況で年々バーが上がっていく傾向にある」(トヨタレンタリース東京、20代前半の男性社員)
「所長以上はほぼなれません。エリアマネージャーなどの昇格の可能性もありますが、その上の地区長などが長い期間で腰を落ち着かせていることが多いのでなかなか、頻繁に昇格はしません。実際エリアマネージャーになっても給料はあまり変わりません」(ニッポンレンタカーアーバンネット、30代前半の男性社員)
市場が拡大し、業績も安定しているレンタカー業界だが、実際に働くレンタカー会社の社員は、業界や会社の将来をどう見ているのだろうか。
「今も将来も不安になる。抜本的な構造改革をしない限り、今も昔も変わることはない」(ニッポンレンタカーアーバンネット、20代後半の男性社員)
「将来性については少し問題があると感じています。現在、人が多く昇格がかなり遅れていると思います。そのせいで優秀な人材が転職し、いなくなってしまっている状態があります」(トヨタレンタリース東京、20代の男性社員)
この会社については、「業界1位でいられるのはトヨタブランドのおかげ」という声もあった。一方でライバルメーカー系のレンタカー会社の社員はこう見ている。
「やはり、自動車といったらトヨタ。車のきれいさと、スタッフの対応など『一流』のものを求める顧客はトヨタに行く。やはり、トヨタのブランド力には勝てない」(日産カーレンタルソリューション、20代前半の女性社員)
もし、日産自動車のカルロス・ゴーン社長がこの声を聞いたら、何と言うだろうか。
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外販活動を強化し、カーシェアリングに期待をかける
レンタカー会社というと、営業所でクルマを磨きながら「ご用命をお待ちしています」という「待ちの営業」的なイメージがあるが、競争が激化する中、大手は法人顧客に対する「外販活動」の強化に乗り出している。
外販活動とは、レンタカー利用を働きかける外回り営業を指す。例えばメーカーA社系レンタカー会社の営業マンが、社有車のA社の新車の買い替えに待ったをかけるケースもあるという。
A社系販売会社には「身内の敵」にも思えるが、カーリースとレンタカーを併用した提案をすることで、リースでの新車販売につながるので、最前線では販売会社の営業マンとの共同戦線もみられるという。
これは「コンビネーションリース」と呼ばれる。本社と工場の移動用など一定の需要にはカーリースで必要最低限のクルマを常備しておき、展示会など臨時の需要や季節変動の繁忙期需要には時間貸しのレンタカーで手当てするというような効率的な車両運用を企業に提案する。
コンビネーションリースは、一種の「ソリューションビジネス」といえる。企業に効率化やコストダウンにつながる提案を行い、新たな潜在需要を掘り起こそうというのだ。このビジネスが広まれば、レンタカー会社も従来と異なるスキルの人材が必要となり、キャリアパス、報酬体系、教育などの社内体制にも変化が生まれるかもしれない。
また、レンタカー各社が個人需要の分野で将来は有望とみて進出を図っているのが「カーシェアリング」。これは、会員制でクルマを「共有(シェア)」し、専用の「ステーション」にあるクルマを“足代わり”に利用する仕組みだ。
会員は、子どもの送り迎えや買い物などの短時間使用で、レンタカーより安い料金で利用できる。会員以外にはクルマを貸さず、細かい料金計算を行うのがレンタカーと違う点だが、レンタカー業界は「クルマを貸す」ことで培った従来のノウハウを活用できる。
カーシェアリングにはオリックス自動車、タイムズモビリティネットワークス(マツダレンタカー)などが進出。ただ時間貸し駐車場業、総合商社、マンションデベロッパーの不動産会社も参入するなど、ライバルも多い。
欧州で生まれたカーシェアリングは日本では認知度がまだまだ低い。便利さが認められて利用が軌道に乗るまで赤字覚悟の運用が現状では必要だ。しかし、それに我慢できず、すでに撤退・倒産した業者もいる。
しかし、市場は期待が持てる。矢野経済研究所では、11年に前年の約24億円から2.5倍の61億3700万円に増加した市場規模は、12年に約2倍の116億9700億円まで拡大と予測している。
米国でもカーシェアリングは注目の新産業で、レンタカー大手のエイビスがジップカー社を買収して進出すると発表した。日本のレンタカー業界も、この期待の新市場で花を咲かせることができるだろうか。