• 昭和シェル 政投銀と太陽光発電参入 ハイリスク事業にのめり込む背景

     2013年の正月明け早々、日付を接するように発表された事業会社設立と投資会社設立の報道記事2つにエネルギー業界関係者の注目が集まった。それは次のような報道だった。

     1つは「昭和シェル石油、コスモ石油、日本政策投資銀行の3社は、今月末にメガソーラ(大規模太陽光発電所)事業の合弁会社を設立」。

     内容はコスモの油槽所跡地など8カ所の遊休地に合弁会社がメガソーラを建設し、合計約26メガワット(2万6000キロワット)の発電を目指すというものだ。今春から建設に着工し、年末の一部商業運転開始を予定。コスモは遊休地の有効活用、昭和シェルは子会社で太陽電池製造のソーラーフロンティアの製品を売り込む狙いがある。

     もう1つが「昭和シェルと政投銀、メガソーラの合弁投資会社を設立。今年2月から営業開始の予定」。

     内容は昭和シェルと政投銀の合弁投資会社が年間で100メガワット(10万キロワット)規模を目標に、各地の新規で建設されるメガソーラのプロジェクトに300~400億円の投資するというもの。資本金などは不明だが、昭和シェル子会社のソーラーフロンティアが60%、政投銀が40%出資する。事業投資ではなく、発電所建設から運転開始後の売電まで一気通貫で請け負うという。

     「新会社設立は昭和シェルが仕掛けたのは明らか。同社が成長戦略として推し進めている太陽電池事業の行き詰まり打開が背景にある」と、あるエネルギー業界関係者は言う。


    「新しいことや改善はとても大変」と社員

     矢継ぎ早に太陽発電事業の新会社を設立した昭和シェル。その背景には「同社が成長戦略として推し進めている太陽電池事業の行き詰まり打開がある」(エネルギー業界関係者)と言う。昭和シェルとは、どんな会社なのか、まずキャリコネに寄せられた社員の声から見てみよう。

     代理店営業の男性社員(30代前半)は、社内状況を、次のように話している。

     「少子高齢化、若者の車離れ、車の低燃費化といったマクロ環境で見た場合、メインの石油ビジネスに展望はない。こういった基本的な認識を表面上は認めない人が多いように感じる」

     また、女性社員(30代前半)は、会社の体質について、こう言う。

     「新しいことをやろう、改善しようと思うととても大変。他部署との調整が必要な改善はほとんど無理に近い。なので、こうしたらもっと効率的なのにと感じることがあっても、誰も何も取り組めていない気がする」

     人事についてどうだろうか。代理店営業で30代後半の男性社員(35歳)が、次のように説明している。

     「管理職のお気に入り人事が横行しており、努力しても報われない人事制度になっている。一方で能力がなくても一定のラインまでは昇格できるため、特に中高年にやる気のない社員が多い」

     人事の透明性が高いと、しばしばマスコミに取り上げられている会社だが、社員の声を聞くと、どうやら内実は違うようだ。


    市場の先行き不透明な太陽電池

     昭和シェルは09年に成長戦略の中核事業として、太陽電池事業に参入した。しかし、国内市場はすでに30~40年の事業歴を持つ京セラ、三洋電機、シャープなどの先発組がシェアを固めていた。

     同社の参入当初の生産実績は、わずか40メガワット。シャープの約1000メガワット、京セラの600メガワット、三洋電機の560メガワットの足元にも及ばなかった。

     そんな中で伸し上がろうと打った奇策が、生産能力900メガワットの国富工場(宮崎県国富町)建設だ。大量生産でコストを下げ、価格競争力を付けるのが目的だったと見られている。

     投資額は1000億円。主力の石油事業の設備投資3年分以上に相当する金額だった。結果、太陽電池の単一工場としては世界最大。同社は一気に国内最大手のシャープと肩を並べる太陽電池メーカーになった。

     この投資に業界関係者の誰もが「無謀だ」と指摘した。だが同社は「勝算があるから難事に挑戦した。当社には秘策がある。国内はおろか、世界でも勝ってみせる」(栗谷川悟ソーラーフロンティア常務執行役員)と自信を見せていた。

     その“秘策”とは、次のようなものだった。同社は国富工場建設と同時進行で、太陽電池最大市場の欧州と今後の市場成長が見込まれる米国に、初の海外販社を10年に設立。

     また、国内でもそれまで縁のなかった電気工事、建材販売などの会社を、先発組の落ち穂拾いのような形で開拓し、11年末には約200店を販売代理店に確保。こうして工場で生産した太陽電池を海外で70%、国内で30%の販路にメドをつけた。

     しかし、業績を見ると、参入当初から赤字の垂れ流しが続いている。直近の12年1~9月期連結決算では、石油事業の営業損益が141億円の黒字に対し、太陽電池を主力とするエネルギーソリューション事業は156億円の赤字。石油事業で稼いだ金で太陽電池が食いつぶす格好になっている。秘策の計画は絵に描いた餅だったわけだ。

     「この状況を変えるために新井社長が打ち出した第二の奇策が、政投銀を抱き込んだメガソーラ事業と投資事業。12年7月から始まった再生可能エネルギーのFIT(固定価格制度)を当てにしているのは明らか」。前出の業界業界は指摘する。

     また、政投銀も「地域経済活性化」を推進し、「メガソーラにそれ行け、ドンドン」で、メガソーラ投融資案件には積極的だ。このことも昭和シェルを後押しした。

     そして、「政投銀と言う金看板をしょって投資活動を行い、メガソーラの建設から売電まで仕切れば、太陽電池を無競合で売れる。しかも、住宅用と比べケタ違いの販売量になるという思惑が昭和シェルにはある」(前出の業界業界)と言う。だが、「思いつきは良いが計画は空想的。建設から売電までのノウハウがない」(同)という見方で業界一致している。

     さらに、太陽電池事業の将来性については不透明感が漂っている。例えば、独最大手の太陽電池メーカーだったQセルズが12年4月に経営破綻し、韓国メーカーに買収された。そのため、「ハイリスク事業」がエネルギー関係識者では今や常識となっている。体質も閉鎖的で、奇策しか能のない昭和シェルに、ハイリスクの太陽電池事業は荷が重そうだ。

     

     

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